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白い悪魔

頭上の空は、まるであふれ出す血の海のように見えた。深紅の色が四方八方に広がり、希望の最後の光を飲み込んでいく。私は地上の地獄の真ん中に立っていた。そこは、炎が荒れ狂い、崩れ落ちた建物を飲み込み、濃い煙を空高く吐き出す場所だった。空気は焼け焦げた肉の匂いで満ち、耳をつんざくような音で満たされていた。痛みの叫び声が私の名前を呼び、私が与えることのできない赦しを懇願していた。


足元の下には、ひび割れた黒い大地が広がり、その上には無数の遺体が積み重なっていた。彼らの目――虚ろで魂のない目――は大きく見開かれ、非難するような視線で私を見つめていた。まるで、この破滅のすべてが私の仕業であるかのように。

私はここがどこなのか、どうやってここに来たのか、まったく分からない。

すべてが混乱しているように見えた。


足の先から髪の毛の先まで、激しい震えが広がっていく。息は途切れ途切れで、周囲の灼熱の暑さにもかかわらず冷たさを感じる。胸の高さまで手を上げ、この恐ろしい現実を理解しようとした。そして、そこで見たのは…手のひらに流れる新鮮な血だった。絶望のささやきのように滴り落ちるその血を見て、息を呑んだ。恐怖が体を駆け巡る。この血は…誰のもの?どうしてこの血が私の手についているの?


背後から重い轟音が響き渡り、まるで世界を破滅へと引きずり込む死の足音のようだった。私は凍りついた。暗闇そのものよりもさらに暗い影が私の体を包み込む。私はゆっくりと振り返った。一瞬一瞬が、まるで肌を刺す棘のように感じられた。


目の前には、巨大な黒い姿が立っていた。広がり、そびえ立つ一対の翼は、まるで最も深い闇から生まれたカラスの翼のようだ。その手には大きく鋭い鎌が握られており、冷たい輝きが脅威を放っていた。私は息を飲み、その鋭い牙と、確信に満ちた表情でこちらを見下ろす目に凍りついた。周囲の空気は凍りつくように冷たく、至る所で炎が燃え盛っているにもかかわらずだった。


低く、しかし死を思わせる声が深い奈落の底からの響きのようにこだました。

「おお、死の女帝ラチェリよ」と、その声は私の名を呼び、嘲笑と確信が混じったような響きだった。


私は震えた。死の女帝?私が?これは一体どういうことだ?


しかし、考える間もなく、赤く燃えるその目が私の魂の奥深くを見据えた。それはまるで、私自身が決して知りたくなかった答えさえも知っているかのようだった。


目が覚めた瞬間、体が引き裂かれるように重く感じ、まるで暗い影に鎖で縛られているかのようだった。息は荒れ、不規則で、肺が働くことを拒否しているかのように思えた。顔は冷たい汗で濡れ、汗がこめかみや頬を伝って流れていくのを感じた。水色の制服はくしゃくしゃでしわだらけ、いくつかのボタンが取れていて、まるで心の中の混乱を映し出しているようだった。


震える手で顔を拭いながら、今起きたばかりのことを振り返る勇気を振り絞ろうとした。


『ただの夢…』と小声でつぶやいたが、その言葉には力がなく、自分自身を納得させるには不十分だった。『でも、なんでこんなにもリアルに感じるんだろう?こんなにも…恐ろしい?』


私はしばらく黙ったまま、静けさの中で思考を漂わせた。視線を巡らせ、豪華な宮廷庭園を見渡す。そこには、色鮮やかに咲き誇る花々があり、その香りが空気を包み込むようだった。しかし、不思議なことに、私の心は重く感じられた。


私の隣には、シカリウスが忠実に立っていた。彼女の落ち着いた顔と無表情な表情は、いつも彼女を揺るぎない存在に見せていた。しかし、今回は彼女の額に少し皺が寄っていた。それは、突然驚いて目を覚ました私に対する疑問の表れかもしれない。


「ラチェリ様?何か気になることがございますか?」と、彼女が尋ねた。彼女の声は穏やかだが、抜き身の剣のように鋭かった。


苦い笑みを無理やり浮かべて、心の中で渦巻く嵐を隠そうとするかのように。

「ううん、何でもないよ」と短く答えたが、その言葉には説得力がなかった。


ゆっくりと制服を整えながら、外れたボタンをひとつひとつ丁寧に留めていった。大理石のテーブルの上に置かれていた青いベレー帽を拾い上げ、しっかりと握りしめてから頭にかぶる。柔らかいハンカチで顔を拭き、汗で濡れた頬をそっと拭い取る。


深く息を吸い込み、空気が肺にゆっくりと満ちていくのを感じながら、目は庭の中央に立つ壮大な噴水に向けられていた。水が穏やかなリズムで飛び散り、心の中の不安を追い払うような静けさを生み出していた。


どうしてこんなことに?この目を見張る美しさの中で、私は恐ろしくもおぞましい悪夢に囚われてしまった。ほんの少し前までは、この庭園の東屋でお茶とビスケットを静かに楽しみたいだけだったのに。この場所はあまりにも心地よく、あまりにも調和に満ちている—その心地よさに油断して眠り込んでしまった。そして今、その夢の影がまだ私を追い続けている。明るい日差しの下でも消え去らない暗い影のように。


「シカ、今何時?」と私は尋ねた。その声は、暖かい昼下がりの風の音にかき消されそうになりながら、制服のポケットにハンカチを滑り込ませる指先が忙しなく動く。


シカリウスは、その優雅な仕草で白いエプロンの小さなポケットに手を伸ばした。彼女の表情は相変わらず無表情で、目には波一つ立たない湖のような静けさが宿っている。そして、彼女は太陽の光を浴びて輝く銀色の懐中時計を取り出し、蓋を開けた。その視線は時計の秒針にじっと向けられている。


「今は午後1時です、ラチェリ様。」彼女は柔らかいが、しっかりとした口調で答えた。


「そうか…」私はだるそうに体を伸ばし、まだ瞼に残る眠気を感じながら呟いた。「1時間も丸々寝ちゃったのね。」半ば愚痴るような声だった。そして、少し焦ったような調子で続けた。「早く図書館に戻って昼休み後の授業を続けないと。遅刻なんかしたら大変なことになるわ!」


シカリウスはいつも品位を忘れず、静かに頭を下げました。

「申し訳ございません、ラチェリ様。お休みのところをお邪魔するのは失礼かと思いました。ただ、ラチェリ様が快適にお過ごしになられているかを確認したかっただけでございます。」


私は控えめな笑みを浮かべ、その遠慮がちな態度を受け入れた。「大丈夫だよ、シカリウス。謝る必要なんてない。これは完全に私自身の失態だから。油断しすぎて、結局寝落ちしてしまったんだ。」私の声はできるだけ穏やかさを保とうとしていたが、心の奥では自分の不注意を密かに叱っていた。


シカリウスと共に、私は城の庭を後にし、目を奪われるような豪華さを放つ廊下へと足を踏み入れた。床一面に広がる赤い絨毯は、まるで宮殿の住人たちのためだけに敷かれた特別な道のようだった。高い天井には美しい彫刻が施され、壁にはクラシックな絵画が飾られている。輝くクリスタルのシャンデリアがさらに、この場の否応のない荘厳さを引き立てていた。


静かな足取りの中、執事やメイドたちの姿が同じ廊下を横切った。彼らの目が私の存在を捉えた瞬間、全員が足を止め、一斉に深々と礼をした。その態度には敬意が満ちており、口からは一言も発されることなく、ただ静寂だけが漂っていた。


私は彼らに一瞥をくれたが、その視線は一瞬のうちに終わり、再びまっすぐ前を見据えた。足取りは相変わらず穏やかだが、威厳に満ちていた。私はこの宮殿の環境に徐々に慣れ始めていた――深いお辞儀やほぼ完璧な丁寧な挨拶など、形式的な方法で敬意が示されるこの場所に。


しかし、その敬意の裏には、もっと陰鬱な現実が隠されていることを私は知っていた。彼らの甘い微笑みや、敬意に満ちた言葉、それらすべてはただの仮面に過ぎない。本当のところを語るのは、礼儀正しい行動ではなく、彼らの視線だった。私の白髪を見つめるその目には、隠しきれない嫌悪感があった。それは、この場所、いや、この世界でさえ、完全に受け入れられることのない特徴のようだった。そして、彼らはそれを決して口にすることはなかったが、その仮面の奥に潜む憎しみはあまりにもリアルに感じられた。


「ねぇ、シカ、頭を下げる使用人より面白いものって何だと思う?」と私は尋ねた。


シカリウスは目を閉じて答えを考えているようだったが、しばらくして目を開け、「分かりません、ラチェリ様」と答えた。


そこで私は答えを教えた。「跳ねるロバだよ。」


「……」

シカリウスはその答えを聞いた後、無言のまま冷たい無表情で私を一瞥し、そしてこう言った。「それは全然面白くありません、ラチェリ様。」


私は彼女の反応を聞いて小さく笑みを浮かべた。「やっぱり、私のシュールな冗談は面白くないか。」


シカリウスのことを心から尊敬しています。彼女はいつも正直で遠回しな言い方をせず、率直に話します。私のつまらない冗談に無理に笑ったり、偽りの笑顔を見せたりしません。彼女の正直さは、偽りの笑顔に囲まれた私にとって新鮮な息吹のような存在です。


だからこそ、私は彼女を完全に信頼し、私のアシスタント兼護衛として任せています。シカリウスは冷静で、まるで氷嵐のように冷たい雰囲気を持ちながらも、真実を包み隠さずにそのまま伝えてくれます。それが私が信じる彼女の姿です。


今でもはっきり覚えています。彼女が無表情のまま【ムカデ臭い】と言ったときのことを。ただ、活動的な一日を過ごした後、入浴もせずに自分の体臭を尋ねただけだったのに。その言葉は私のプライドを傷つけましたが、同時にお金では買えないものを象徴していました。それは、妥協を許さない真心です。


こんな辛辣な答えは、おべっか使いの口からは絶対に出てきません。それがシカリウスです。彼女は他人を喜ばせたり、礼儀正しく見せたりして周囲の気持ちを配慮する社会的なプレッシャーに対して全く無頓着な猫のような女性です。真実を遠回しにせず、気まずさを避けるために嘘をつくこともしません。むしろ、答えが不快に思われるかどうかを気にせず、正直さに重きを置いています。この態度は彼女の強い誠実さを示しており、他人から見れば冷たいと映るかもしれませんが、それが彼女の真の魅力なのです。


まあ、他の二人の侍女であるサルマトとセリオンを信じていないというわけではありません。彼女たちは本当に私に親切で、心を込めて仕えてくれて、とても従順です。もし私が彼女たちに井戸に飛び込めと言ったら、何も考えずに従うかもしれません。それはかつての侍女たちとは対照的です。


私の三人の専属侍女は、北の地の猛者、ハンスシュタイン公爵に直接訓練された戦闘メイドです。彼女たちは間違いなく卓越した戦闘技術を身につけています。もし彼女たちが本当にこの白髪を憎んでいるのなら、一瞬で私の息の根を止め、宮殿から痕跡を残さず消え去り、その際に宮殿の守衛を全て圧倒することもできるでしょう。しかし、現実は違います。彼女たちは今も私のそばにいて、忠誠を尽くしているように見えます。――あるいは、少なくともそう装っているのです。


私は気づいています。たぶん私は判断を急ぎすぎたのかもしれないし、結論を出すのが早すぎたのかもしれません。でも、それが重要でしょうか?もし裏切りが最終的に訪れるなら、私は驚きません。その裏切りによる背中の刃を、暗い夜の後に必ず訪れる朝のように受け入れるでしょう。なぜなら、私がこの世界に王女として生を受けた瞬間から、私は腐敗した政治と裏切りに満ちた策略に縛られていたのです。裏切りは、毎日吸い込む空気のように当たり前のものです。そして正直に言えば、私は影の中から私を徐々に殺そうとする敵の方が、雷鳴のように訪れる裏切りよりも恐ろしいと感じています。


私は慎重にシカリウスと共に螺旋階段を一歩ずつ進み、この壮大な城の五階へとたどり着きました。一段一段の足音が響き渡り、まるで時間を超えてこの堅固な建物の長い歴史を語っているかのようでした。五階の廊下に到着すると、私は大きな窓に目を奪われました。そこから見えるのは、広大な城の中庭と、その中庭を厳重に見守る屈強な騎士たちの姿でした。


私は立ち止まり、微笑みを浮かべました。胸の中に温かい誇りが込み上げてきます。あの騎士たちの献身を見ると、彼らはただの護衛ではなく、この城を昼夜問わず守り続ける強固な砦そのものでした。疲れを見せることもなく、不満を漏らすこともなく、その献身は真心からの奉仕の証でした。それは空高く称えられ、永遠に感謝されるべき尊い犠牲であると感じました。


「ラチェリ様、お疲れでしょうか?必要であれば、私がお背中をお運びします。」と、シカリウスは冷静な声で言った。その表情はいつものように冷たいままだったが、その言葉は彼女の無関心そうな態度とは対照的で、彼女の心からの思いやりが予想外の温かさを周囲に生み出していた。


私は小さく微笑みながら首を横に振った。「ありがとう、シカ。でも大丈夫よ。」と優しく答えた。「確かに階段を上がったり歩いたりして、少し足が疲れたけど…その疲れさえも、なんだか心地よく感じるの。不思議だけど、まるで一歩一歩に意味があると体が教えてくれているみたい。」


シカリウスは短くうなずき、表情は変わらないが、その態度には深い敬意が込められていた。「承知しました、ラチェリ様。」と、感情を抑えた声で答えた。


廊下に目を戻したとき、遠くの静かな長い廊下の端で、いくつかの影が動いているのがぼんやりと見えた。彼らは白いローブを身にまとっていた。目を細めて、さらに詳細を確認しようとしたが、薄暗い光のせいで全体像がはっきりとしない。好奇心が私を包み込む。彼らは誰なのだろう?ここで何をしているのだろう?


彼らの足取りは遅いながらも確実で、私との距離は徐々に縮まっていった。ついに彼らの姿がよりはっきりと見えるようになった。彼らの白いローブは清潔で、そこには興味深いシンボルが描かれていた。しかし、彼らの顔には何の表情もなく、まるで命のない人形のように無表情だった。


そのとき初めて、彼らが誰なのかを理解した。彼らはある宗教のセクトに属する一団であり、確固たる信念を抱きながら堂々と歩いていたのだ。


私の青い瞳は冷たく彼らを見据えた。宗教のセクトの一員であることが分かったからだ。白い長いひげと顔に深いしわを刻んだ人物は教皇であることが明らかだった。そのローブは他の者たちのものよりも洗練され荘厳な雰囲気をまとっており、金製の宗教的な杖を携えていた。そして、私の鋭い視線は教皇の周囲にいる者たちが手首に小さなナイフを隠しているのを捉えた。それによって、彼らが教皇の護衛であることは明白だった。


青い瞳の鋭い視線を持つ教皇は、私との距離が徐々に縮まるにつれて私を見つめた。毅然とした仕草で、彼は左手を頭の高さまで上げ、護衛たちに歩みを止めるよう合図を送った。その後、彼の体は少し前屈みになり、尊敬を誘うような優雅な動きを見せた。それに続くように、後ろに控えていた護衛たちも同様の動作をした。彼の右手は依然として黄金の杖をしっかりと握っており、それは宗教と偉大さの象徴として輝いていた。


「おお、ラチェリ姫。この廊下でお会いできるとは、これ以上ないほどの光栄です。あなたが健康でお元気そうな姿を見られて嬉しく思います。私はベヘムデトゥス教団の教皇、ザビエル九世でございます。」


たとえ教皇が礼儀正しく形式を保っていたとしても、その視線は私に注がれ続けていた。いや、正確には私そのものではなく、私の白い髪に向けられていた。その目の輝きは解釈が難しい。露骨な憎悪の表情は見られないが、何か隠されたものが、視線の奥深くに潜んでいるようだった。だが、それとは対照的に、護衛たちの視線はあまりにも明白だった。鋭く燃え上がるような眼差し。嫌悪と憎しみが隠されることなく、私の周囲の空気を切り裂くように漂っていた。彼らの目はただ見ているだけではなかった。裁き、威圧し、まるで私の存在そのものが不快な棘であるかのようだった。声には出さない脅威。しかし、それは心の奥底まで突き刺さる刃のように感じられた。


シカリウスは突然、メイド服の長袖の中から、黒と赤の殺意を帯びた一対の短剣を取り出した。彼女の鋭い猫のような視線は獲物を狙うように教皇の護衛たちを見渡し、冷徹で妥協のない脅威を放っている。尻尾の毛は逆立ち、殺意の本能が完全に覚醒していることを示していた。


私はすぐにシカリウスの感情の変化に気付いた。何かが彼女を警戒させているのだろう。おそらく教皇の護衛たちから放たれる殺気だ。しかし、今は騒ぎを起こす時ではない。私は慎重に、二人だけが理解できる手信号を送った。人差し指と小指をゆっくり動かしながら、静かに彼女を落ち着ける合図をした。


シカリウスはそのメッセージを瞬時に理解した。ほとんど目に見えない動きで、短剣を再び袖の中へと隠す。一度深呼吸をし、目を閉じてほんの一瞬集中を取り戻すと、彼女はいつもの優雅な態度に戻った。逆立っていた尻尾の毛も徐々に落ち着き、リラックスした状態に戻る。しかし、その落ち着いた姿の裏で、私は彼女の殺意の本能が依然として警戒を怠らず、必要であれば解き放つ瞬間を待ち構えていることを感じ取っていた。


「お会いできて光栄でございます、教皇ザビエル様。」と私は優雅に身体を傾けながら述べました。両手でまるで豪華なドレスの裾を持ち上げているかのような仕草をしましたが、実際にはパンツを履いておりました。私の瞳には真の王女らしい柔らかな光が宿り、気品が漂っておりました。

「この王宮にお越しいただけるとは、これ以上ないほどの恩恵でございます。この地は、かくも高貴で神聖なるお方が訪れてくださることで、本当に祝福されております。」


「絹のように滑らかで、咲き誇る薔薇のように美しいお言葉を頂けるとは、これ以上の光栄はございません、ラチェリ姫様。」と教皇ザビエル様は恭しくお返事されました。その微笑みはまるで霧を切り裂く朝の光のように輝いておりました。


私はその微笑みに温かく誠実な笑顔で応えました。「教皇様、身に余るお言葉を頂き恐縮です。しかし、そのように称賛していただけること、大変光栄に存じます。それでは、教皇様がこの遠方まで足をお運びくださった目的について、お伺いしてもよろしいでしょうか?」


教皇ザビエル様は宗教指導者としての賢明さを携えて頷かれました。「姫様、私がここへ参りましたのは重要な会議に出席するためでございます。この会議では、王様や他の宗教指導者の皆様と共に、各宗派の権限の境界について話し合う予定でございます。」


「なるほど、そのようなことが。この王宮が、様々な宗派の偉大な指導者が集う歴史的な瞬間を迎えるとは夢にも思いませんでした。この日は美しさと知恵に満ちた一日になることでしょう。その会議が円滑に進むことを心よりお祈り申し上げます、教皇様。」


「心のこもったお祈りをありがとうございます、ラチェリ様。神のご加護がいつもあなたと共にありますように。」と教皇様は穏やかにおっしゃり、黄金の杖を掲げて、まるで祝福を与えるかのように掌を私に向けました。そして、その後、忠実な護衛たちに付き添われながら立ち去られました。


振り返ると、私の鋭い視線は、まるで抜 き身の短剣のように教皇を貫いた。その 足音がこの静寂な廊下に響き渡り、不気 味な沈黙を伴って進んでいく。彼が高く 掲げる聖なる杖と、前に差し出された手 のひらは、ベヘムデトゥス教団の祝福や洗 礼を表すものではない。その仕草は異教 徒への裁きを象徴し、彼の目には穢れた 悪魔を追放する儀式そのものだった。彼 にとって、私はただの7歳の子供でも、何 も知らない無垢な少女でもない。私を滅 ぼすべき悪魔だと見なしているのだ!


だが、それこそが彼の誤りだ。彼はただ の愚かな老いぼれに過ぎない――傲慢にも 私を軽んじている者だ。彼が知らないの は、私はすでに彼の本性をはっきりと見 抜いているということだ。揺れる蝋燭の 灯りよりも鮮明に、この廊下にいる彼の 姿を。彼は偽りの笑顔の仮面に隠れた、 数多くの敵の一人に過ぎない。


その時が来れば、私は全ての敵を彼らが 隠れる影から引きずり出してみせる。彼 らは自分たちが本当の敵に直面している ことを知るだろう。そしてその時、情け は一切ない。私は全員を容赦なく叩き潰 し、跡形も残さない。


私はラチェリだ。しかし、この小さな体に宿る魂はリサ——現代の世界から来た魂だ。

神が与えてくれたこの【第二の人生】を、誰にも奪わせはしない。この機会は私のものだ。奪おうとする者がいれば、たとえ世界を敵に回してでも、私は守り抜くと誓う!


薄暗い廊下に私の足音が響き渡る。その音とともに、燃え盛る怒りが私の血管を駆け巡る。額には深い皺が寄り、青い瞳はまるで燃えさかる炎のように輝いている。


なぜ神が前世の記憶と知識を消さなかったのか——その理由があるに違いない。そして今、私は確信した。神は私にこの世界の全てに証明させるために力を与えたのだ。ファンタジーの住人たちに、この脳に宿る現代科学と知識の恐怖を知らしめるために。この白髪の悪魔の頭脳に秘められた力を。


私は宮殿の巨大な図書館の扉の前で足を止めた。深く息を吸い込み、肩にのしかかる運命の重みを感じる。その時、後ろにいたシカリウスも歩みを止め、半開きの瞳で少しだけ私に視線を投げかけた。


私は小さな手で宮殿図書館の両開きの扉を押し開ける。


奴らが【本当の恐怖】を見たいというのなら——私は奴らの想像を超えた恐怖を見せてやる。このファンタジー世界の核を揺るがすほどの恐怖を!


続く…

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