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旅立ち

葬式の日が来た。家族、親しい友人、近所の人々、同僚たちが悲しみに包まれて葬儀場に集まった。私は自分の体から魂が離れ、周りで起きている出来事を重い目で見つめることしかできなかった。母はとても弱々しく見え、涙が止まらずにすすり泣いていた。父は強い表情をしていたが、目には涙を浮かべて母の背中を優しく撫でながら落ち着かせようとしていた。私は話しかけたかったし、慰めたかったが、もう私は超自然的な存在になってしまっていたので、私の言葉は聞こえず、届くことはなかった。


私の体は棺桶に納められ、きちんとした黒いスーツを着せられ、香りの良い花が散りばめられていた。葬儀を司る僧侶が祈りを始め、会場の皆も一緒に私のために祈った。なぜか、その祈りが始まると、私は冷静で穏やかな気持ちになった。まるでその祈りが神に直接届き、私に何か影響を与えているような気がした。その時、私は自分のことを気にかけてくれる人々がいることが嬉しかった。今まで私は誤解していた、家族や親しい人たちが私を無視していると思っていたが、彼らの涙は私がこの世界を離れることを望んでいなかったことを示していた。


葬儀が終わった後、みんなが私の棺を霊柩車に運び、霊柩車は近くの墓地へと向かった。その後ろには家族や親戚の車が続いていた。


私は霊柩車に座っていたが、自分の体から離れることができなかった。なぜなら、胸のあたりに何かの鎖がついていて、それが私の遺体に繋がっており、私はそれを引き離すことができなかったからだ。この鎖は、私の体がきちんと埋葬されるまで外れないようだ。もしくは、死神がそれを解放してくれるのかもしれないが、昨日以来、私は天使を見かけていない。


お墓に到着すると、人々は私の棺を、墓地の職員が掘った穴に運びました。私の親戚は、私の棺が深い墓に入れられる過程を見守っていました。墓地の職員が穴の中に入り、私の重い棺をゆっくりと下ろしました。私の棺が墓に入れられると、親戚たちは涙を流し始めました。特に母は、大声で泣きながら、私がこの世を去ることを受け入れられないようでした。


私はただ見守ることしかできませんでした。母が底なしの悲しみの中に沈んでいくのを見て、私はとても悲しく感じました。私をこの世に生んでくれた母が、私のこの世を去るのを大きな声で送り出しているのを見るのは耐え難いことでした。涙を流したい気持ちでいっぱいでしたが、私は霊になってしまったのか、涙は出ませんでした。


もし涙を流せないのなら、私は母のところに行き、たとえ霊の姿では物理的に触れることができなくても、彼女を抱きしめました。そして、柔らかな声でこう言いました。「ここにいるよ、母さん。私の出発を涙で見送ってくれてありがとう。私を大切に育ててくれて、たとえとても辛かっただろうけど、私を送り出そうとしてくれてありがとう。悲しみに沈まないで。」


私の声は母には聞こえませんでした。母は泣き続けました。しかし、少し後、母は息を呑み、何かを感じ取ったかのように口を開けて、低い声でこう言いました。「リサ、あなたなの?ここにいるの、リサ?」


驚きました。母が私の存在に気づいてくれるなんて、直接目で私の姿を見ることができなくても、まさかそんなことがあるなんて思いもしませんでした。母は私の行方を探すように頭を振り向け、涙を流しながら何度も私の名前を叫びました。


「ここにいるよ、お母さん。」


「リサ?リサ!!!そこにいるの?私の声も見えるの?リサ、大好きよ!お願い、私から離れないで!」


母は大声で叫びながら涙を止めどなく流し、その涙はまるで滝のように顔を伝って流れました。私の他の親戚たちは、母が幻覚を見ているのか、年齢のせいで深いショックを受けているのだろうと思いました。だから、私の棺がまだ埋められていないのに、母をお墓から引き離そうとしました。母はそれを拒むように、私の名前を叫び続けました。


私はただ微笑んで、母が連れ去られるのを見守るしかありませんでした。手を振りながら、こう言いました。「さようなら、お母さん。リサはいつまでもあなたを愛していて、絶対に忘れません。最近仕事が忙しくて、あまり一緒に過ごせなかったことをごめんなさい、お母さん。」


埋葬の儀式が終わった後、人々は私の墓を後にした。だが、私はまだ自分の墓の近くにいた。胸に繋がった鎖が死体と結びついていたからだ。他人の墓の墓石に腰を下ろし、青く晴れた空を見上げながら物思いにふけっていた。


しばらくして、澄んだ空に突然大きな亀裂が入り、耳をつんざくような音が響いた。空が裂けた瞬間、驚きはしたが、不思議と恐怖は感じなかった。


「なんで空が裂けたんだ?」


見上げると、亀裂が徐々に広がっていくのがわかった。そして、その中に何かがあるのを感じた。亀裂の中には巨大な赤い目があった。それは私を鋭く睨みつけ、恐ろしいほどの存在感を放っていた。しかし、それでも私は怖くなかった。むしろ、その光景に驚嘆していた。


やがて、その亀裂から巨大な手が二つ現れ、空を引き裂いた。そして、その赤い目の主も亀裂の中から姿を現した。その姿は少し奇妙だった。体はなく、ただ巨大な眼球だけがあり、さらに白い六枚の翼が空いっぱいに広がっていた。そして、巨大な手が二つ。


「ああ、これが死神の本当の姿なんだな。鎌なんか持ってないし、モンスターみたいな見た目だ。人々が描く天使とは全然違う。でも、人間の姿でもなく、見た目が恐ろしくても、この天使からはどこか…神聖な光が放たれている。」


死神の大きな手がゆっくりと私の方に降りてきた。その手のひらは、まるで私を乗せようとしているかのようだった。私は迷うことなく右足をその大きな手のひらに乗せた。少しの間、死神の赤い目をじっと見つめた。睨みつけているようでも、そこに軽蔑のような感情は感じられなかった。むしろ、その空に浮かぶ翼の生き物は、私を敬っているように思えた。


私は動いて、ついに天使の手のひらの上まで登った。その手のひらには、信じられないほど美しい花々がたくさん咲いていて驚いた。死の天使の手のひらに、こんなにも素敵な花が育っているなんて思いもしなかった。その花の香りも素晴らしくて、まるでこの世で最も高価な香水よりも良い匂いがした。この天使は私を歓迎しようとしているのだろうか?それとも親しくなりたいのだろうか?でも、どうして?こんな巨大な死の天使が私に優しくしてくれる理由が分からない。私は聖女でもなんでもないただの人間なのに。


その天使の手が上に持ち上がり、私を広大な空へと運んでいく。下をちらっと見ると、この世界の素晴らしい景色が広がっていた。胸に繋がっていた、私の死体と結ばれていた鎖が、天使の6枚の羽から舞い落ちる羽毛によって粉々に砕かれ、私の魂は永遠に死体から解放された。


天使は私を空に開いた大きな裂け目へと導いた。その裂け目に入ると、雰囲気が一瞬で穏やかになり、周りには無数の明るく美しい輝く光が浮かんでいた。そして、荒々しい水の波が押し寄せてきて、まるで宇宙空間にいるような、または海の上にいるような感覚だった。でもこれは宇宙でも海でもなく、空の異なる層、いわゆる「第一の空」なのだと感じた。


私の宗教では、死者の魂は「七つの天」の最上層、つまり来世で審判が行われる場所に運ばれると言われている。この死の天使が私をどこに連れて行くのか、今なら分かる。私はため息をつき、満開の花々で覆われた天使の手のひらに座りながら、空の様々な層の景色を眺めた。その景色は本当に美しく、言葉で表現できないほどだった。美しすぎて、ただただ呆然とするしかなかった。


「私、地獄に行くのかな?それとも天国?分からない。私、善いことをしたのか悪いことをしたのか、全然覚えてない。ただ、魂になった今でも頭に強く残っている記憶は『仕事、仕事、仕事、仕事、仕事、仕事』それだけ。こんなに働いても金持ちになんてなれなかったし、挙句の果てに心臓発作で死んじゃった。本当にバカな働き者だよね、私。」


最後に、私は死神と共に空の第七層に足を踏み入れた。この場所はとても明るく、広大な黄金色の雲が広がっていた。そして、目の前にはとてつもなく巨大な宮殿が見えた。その大きさのあまり、私も死神もその宮殿に比べればバクテリアのように小さく感じた。


「うわぁ、なんて大きくて豪華な宮殿だ!あれが天国なのか?それとも神様が住む宮殿なのか?」私は驚きながら、自分に問いかけた。


第七天国に私を連れてきた死神は、私がそう言っても無反応だった。その六つの翼をはためかせながら、黄金色の雲の上をただ飛び続けていた。正直、宮殿についての答えを期待していたわけではないので、死神が沈黙していても別にがっかりはしなかった。そもそも、この死神は空の層を越えて旅をしている間、一言も話さなかったのだ。多分、口がないからだろう。


私は立ち上がり、慎重に死神の手のひらの端へ歩いていった。そして下を覗き込むと、砂漠のように見える黄金の雲を見たくなった。すると、目の前に非常に長い人々の列が見えた。その列は、大きな壁へと向かっていた。壁には二つの門があり、それぞれ二人の黒と白の姿をした者たちが守っていた。


「人間…いや、人間の魂か。どうやら彼らも私と同じで、死んで第七天国に来たらしいな。」


私は黒と白の二人の姿に目を向けた。「じゃあ、あの二人は誰だ?天使か?二人とも黒と白の鎧を身にまとっていて、顔は鉄のヘルメットで隠されている。巨人のように大きくて、翼もある。」


そう言いながら、私は死神の人差し指の先に座り、足をゆっくりとぶらぶらさせていた。そして、下に見える長い列をじっと見続けた。不思議なことに、その列の人々の姿がどんどんはっきり見えるようになった。気づけば、私を運ぶ死神が高度を下げていた。


「どうやら列の後ろに私を降ろすつもりだな、死神さん。」


死神は僕を手のひらに乗せて、優雅に羽を広げながらゆっくりと降りてきた。そして、きらめく黄金の雲の上にそっと手を差し伸べ、その手を慎重に下ろした。

赤い目を持つ死神が僕にちらりと視線を向けると、一瞬だけ翼がピクリと動いた。まるで「降りなさい」と合図をしているかのようだった。


その意味をすぐに理解した僕は、小さく頷いて微笑んだ。そして迷うことなく死神の手のひらから飛び降り、綿のように柔らかい黄金の雲の上に降り立った。

その瞬間、死神は六つの翼をもう一度広げ、高く舞い上がって僕から遠ざかっていった。僕はただ見送ることしかできず、やがて死神の姿は視界から消えていった。


「きっと僕をここまで運んでくれた死神は、生き物たちの魂を拾いに、再び生者の世界に戻っていくのだろう。」


そうつぶやいた僕は、歩き出して列に加わり、一番後ろに並んだ。そして目の前にある二つの門の前に立つ、黒と白の二つの人影に向かって順番を待つことにした。


続く…


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