間接キスはモスコの味
大学に入って半年ちょっと。
俺は男女混合の仲良しグループで集まり、安い居酒屋で飲んでいた。
メンバーは七人。
男四人、女三人。
そんなグループが仲良しなだけで終わるわけがなく、
誰それと誰それは付き合いそうだとか、キスをしたとか、
そういった話題は、当人たち以外で集まる時の話題になっていた。
そんなグループの中に、アヤという女の子がいた。
アヤは、中学時代にソフトボール部でキャチャーをしていたらしく、
そのためか骨太で肉付きも良くて、おまけに性格もサバサバしていて、
女の子らしい女性が好きな俺からしたら、何の魅力もないような女性だった。
さて。
飲み会の話に戻る。
まだビールが好きじゃなかった俺は、モスコミュールを頼んだ。
安い居酒屋のモスコミュールは、たいてい美味しくない。
ところが、その居酒屋のモスコは意外に良い味していた。
俺は思わず、
「あ、うめっ」
と言った。
誰も興味を示さない中で、アヤだけが食いついてきて、
「マジで? 飲みたい飲みたい」
と言い出した。
俺は、基本的に間接キスが苦手だ。
男同士では、絶対にまわし飲みをしないし、
女の子相手でも、物凄く抵抗がある。
しかし、まわし飲みがイヤとも言えず、アヤにモスコを差し出した。
アヤは、普段と変わらない雰囲気のまま、
「どこ飲んだ?」
と聞いてきた。
俺は、一瞬意味が分からなかったが、
要するに俺と間接キスをしないために聞いたのだと気付き、
「あ、そこ。ほら、ちょっとくもってるとこ」
と答えると、アヤは俺が何か言う間もなく、
そのくもった部分を自分の口にあててグビグビとモスコを飲んだ。
飲み会の帰り道。
アヤは俺に、
「私のサイン、分かった~?」
と酒臭い息でからんできた。
「いや、分かるもなにも」
そう答えると、アヤは正気にかえったのか、
「あぁ、そっか」
そう答えて、なんとなく寂しそうに離れていった。
その姿が、なぜだろう、なんとなく可愛かった。
「お前さ、キャッチャーなのにサイン出すの下手過ぎ」
俺が笑いながらそう言うと、アヤは、
「基本、ピッチャーまかせだから」
そう言いながら、はにかんだ。
俺も酔っていたのか、その、はにかんだ感じがたまらなかった。
「一緒にバッテリーでも組むか?」
アヤと付き合ってみるのも良いだろう。
酒の勢いで、そう言ってみた。
アヤは、
「ん? どゆ意味?」
キョトンとした顔でそう答えた。
「あぁ……、お前、サインも下手だけど、キャッチも下手なのね」
俺はそう言いながら、アヤを抱きしめた。
「ナイスキャッチ」
アヤが、小声で言った。