ヒロイン魔改造計画起動 1
これはもしこんな状況になったらのたられば話だ。
もし自分が事故なり自殺なり何やかんやあって急死して好きだったゲームの世界の住民として転生したとしよう。
ゲームの主人公やライバル、モブキャラなどの憑依転生でも、ただその世界の一住人として転生したでもどちらでもいい。
もしもそんな状況になってしまった場合、態々原作に介入しようと思うだろうか?
例えば”自分の推しはどのルートを辿っても最終的に死んでしまうから救済したい。”とか、”主人公に集う美しくも可愛いヒロイン達を寝取り自分だけのハーレムを作りたいから介入する。”とか。
もしも原作介入するのならばそう言った理由を元に介入することだろう。まぁこれは一部の奴らの考えだろうし他の人がどうなのかは知らんが・・・。
だが実際にゲームの世界にTS転生した堂々たる当事者の一員、脳筋エルフこと私の場合、原作には介入しないと決めている。
例えばこの世界が純情ハーレム系18禁学園もののエロシーン満載のエロゲー世界だったら喜んで原作介入することだろう。今はほぼ枯れかけている精力があった頃だ。それにマイ息子も。
もしもそんな状況になったら勿論俺は口から涎を垂らし腹が減った犬が山盛りの餌を貪るように自分も原作介入して色々とイチャイチャしたりして楽しむことだろう。
しかし残念なことに、この世界はエロゲーっちゃエロゲーだが魔王やら帝国やら一歩ミスしたら世界が滅びてしまう地雷原が一歩の隙間無く敷き詰めてある世界だ。
下手に原作介入して自分のミスによるバッドエンドを招いてしまったらガチめにまずい。まずすぎる。
自分のせいで何億人も死んでしまったら、それこそ自害を選ぶ程に後悔をするだろう。
原作を知っている俺は、いわば何億人もの魂という名の天空を背負っているアトラースの様な状態。
迂闊に動いて本来救われる筈のハッピーエンドや世界は滅ばさないが主人公は死んでしまうメリーバッドエンドも潰してはならない。
故に、俺は原作介入することを拒否してゲームの世界で主人公一行とストーリーに関わらない場所で冒険者として活動をしている。
最初こそ原作介入したいと頭の片隅で考えて居たりしたが家族のことや日々の生活、人間関係にもまれ今ではそんな考えは一片たりとも存在していなかった。
実際に原作が始まるまで時間はあったが、何かしらの運命力で原作開始前の登場人物にあうなんてハプニングも無かった。
そう。無い筈なんだ。無かったことにして欲しい・・・、無かったことになってくれ・・・・!!
まさかあんな些細な事で・・・原作介入してしまうかもしれない今の現状を・・・・無かったことにしてくれ・・・・・・!
何故こうなってしまったのだろうか?これは半日前に遡る――――・・・
◇◆◇◆◇◆◇
「はぁ?私に弟子をつけるだって?」
天高くに昇る朝日がカンカンと照らし朝から精を出し仕事をしている労働者達が午後の英気を養うために食事を楽しむであろうお昼頃、朝早くから依頼をこなしてきた冒険者達が受付嬢に依頼完了の手続きをし得た金で少しばかりお高い食事処で昼食をとっている。
そんな喧噪が少しばかし聞こえるギルド長の執務室の中で、私は期限ギリギリで仕様の変更を求められ不平不満を吐き続けるSEがそんな悪感情を押し込み疑問を投げかけるかのように問い返した。
「あぁ・・・そうだが。何か問題でも?」
ギルド長はうず高く積まれた書類を終らし綺麗になった机の上に湯気立つ紅茶を啜りながらそう答えた。
私は”確定事項だ。”と言わんばかりの態度で理不尽極まりない要求をするギルド長に苛立ちを感じる。しかしそんな感情を抑えながら自分の中で強い主張をする疑問が生まれていた。それは・・・
「何故私と師弟関係を結ばせようと思ったんだ?以前にも同じような事をしたが失敗しただろ?忘れたのか?」
事実、以前にも上位冒険者と新人冒険者で師弟関係を結ばせ新人冒険者の死亡率を下げようと訓練をさせる取り組みがあった。
そのシステムを導入する前は入った新人冒険者の二人に一人は死んでしまうというかなり高い死亡率が課題であったが、導入後は一応ながら激減した。が、今度は逆に入ってきた新人冒険者達が続々と辞めて行く様になる。
しかしながら新人冒険者の質は高くなり死亡率は11人に一人程度と減少したため今も尚このシステムは続いている。
実際に私もそのシステムで弟子を取りはした。田舎町から一攫千金を目指してやってきた男勝りの少女だったが・・・まず体力をつけるために持久走をやらしたり自分が得意な魔力操作のコツや武器の使い方、装備で揃えるべき物や魔物の弱点をたたき込みはした。だが、現物の魔物・・・5メートルの体高を持つビックボアを目の前にし死にかけながら討伐した後静かに冒険者を辞め実家に帰ってしまうことに。
そもバカでっかくて3級冒険者があたるような魔物をも討伐する才能もあり将来有望株筆頭だった彼女曰く、「くっそ強い魔物を死にかけながら討伐したのに得られる金が少なく自分に一攫千金は無理な話だった。これなら実家に戻って狩人の仕事をした方が幾分もマシ。」だそうだ。
一応パワハラやらモラハラやらを気をつけた上で死なぬように必死な訓練をさせたのだが化け物を見て、殺されかけた人にとって死よりも恐ろしくトラウマを植え付けてしまったのかも知れない。
そんな出来事以降、自分の指導力に自信が持てなくなり、未だ続いているこのシステムには選ばないよう頼み込んでからは弟子を取って欲しいなんてことは無くなったのだが・・・何故今もう一度師弟関係を結ぶことを望まれているのだろうか?
「…言いたいことは分かる。私だって君に弟子をつけないようにはしてきた。が…仕方ないだろう…はぁ。」
ため息をつきながら紅茶を飲み話を続ける。
「…君に弟子入りしたいって受付に直談判してきた奴がいるんだ。」
えぇ…(ドン引き)。そんな物好きが一体何処に…、てかその程度ならこのギルド長は気にもせず足蹴にするだろう。規律に厳しく自分に甘いのだからな。
「…君は今失礼な事をかんがえてないか?そういう顔だが…まぁいい。兎に角君が思う通り普通なら突っぱねる。うちのギルドで一番貢献しているのだからそれくらいはキッチリと守るさ。だがな…今回直談判してきたのが」
「この先にいるのね!」
不意に廊下から小さな声が段々と近づく気配がした。脳内では微少な警報が鳴り響いており嫌な予感という物がヒシヒシと伝播してくる。
「お待ちください!この先は関係者以外立ち入りが禁止でって無視して進まないでください!」
ドンドン声が大きくなってきており床と布がこすれる音と靴が鳴らす音が合わさり脳内には過去最大級の警報が五月蠅いほどに響く。
「貴方が有名なブラッティーオーガご本人ね!!」
扉を蹴飛ばす勢いで開けて内部に入ってきたのは一人の若い少女だった。魔道士が着る濡れガラス色のローブを羽織り、ローブの隙間からは下に着ているであろうレザー製の胸当てに白っぽいシャツと肌色のゆったりとしたズボン。黒色の様に見えるブーツは汚れの一つ無くその姿は駆け出しの冒険者というよりは冒険者のフリをした何処かの貴族令嬢かのようにも見えた。
が、その前に一つ思うことがある。
・・・誰だこいつ???
こんな如何にも貴族ですみたいな知り合いなんぞ知らんが…。
バァーンっと派手な効果音と共にやって来た仮称貴族令嬢。彼女が現れた瞬間、ギルド長は嫌なものを見てしまったような反応を浮かべ私にだけ聞こえる声量でこの仮称貴族令嬢について教える。
「…彼女はエッダ・ベルゴン。このベルゴン市を統治しているベルゴン公爵家の娘で…お前に弟子入りしたいって言ってきた変わり者…だよ。」
・・・……スゥ
「本当に・・・エッダ・ベルゴンって名前なのでしょうか?」
嫌な予感が正に的中した瞬間だった。脳みそが一気に零下まで冷め切り冷静になった思考でもう一度確認をとる。それが事実ではない事を確定させたいが如く・・・。
何時もはなめ腐った態度で接してくる脳筋なエルフが急に敬語口調になったことに唖然としながら驚愕。素早く二度見をしたギルド長は言葉を詰まらせながらもこう答える。
「あ・・・あぁそうだ、彼女がエッダ・ベルゴンだ。」
・・・・・・・・・スゥ
ヌゥン!ヘッ!ヘッ!
ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛
ア゛↑ア゛↑ア゛↑ア゛↑ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!
ウ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ!!!!!
フウ゛ウ゛ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ン!!!!
フ ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥン!!!!(死)
チー――――――ーン・・・・・・・・・(昇天)
私の脳内で飼育していた残機代わりの野獣先輩(仮)が認めたくない事実を受け入れないために自害してしまった。
なーんで今まで関わってきたことが無い原作が急に来るんだよ!!ここは原作から離れた辺境の地(侮辱)だぞ!?お前黒塗りハイエースか!?ハイエースなのか!?
原作主人公も訪れることが無い、ゲームに出てこないあくまでも設定上の場所だぞ!?確かに”あぁ・・・絶対登場人物の誰かがいそうだな・・・”って思ってたけど、ここの領主には息子が二人しか居ないはずだ!!公開資料も、裏の情報も大枚叩いて確認したから間違いが無いはず・・・はッ!!まさか・・・。てめぇ・・・何処から生えてきた!?地中か!?地中なのか!?てかお目々がやけにキラッキラだな!!お前の立ち絵の目ハイライトの無いレイプ目だったじゃん!!服装も歴戦の戦士が如く返り血で染まった外套じゃなくてペッカペカな外套だし!!魔法杖も新品同様だし!!
・・・・・・・ンン帰れ!!私の平穏?な冒険者ライフから出て行け!!地中にぃぃぃー帰れーーーッ!!
私の心の中は台風が直撃、巨大化した淫夢素材達が大暴れし復旧不可能だ。
顔がみるみる真っ青になる私を見てギルド長が珍しくオドオドしながら「大丈夫か?」と心配そうに気遣うが私の耳には届いていない。すでに思考という海の深海まで深く入り込み考えて居たからだ。
エッダ・ベルゴン。
年齢は不明、外見や仕草から20代前半とファンの間で考察されていたエロゲーあるあるのボッキュウボンなセクシー体型なうら若き女性。
出身、過去、所属等々が不明で唯一分かっているのはベルゴンと言う地方出身のみ。戦闘スタイルは風と土の二属性を用いた中距離、物理型の魔法で物量制圧をする癖が無く使いやすいキャラクーでダンジョン等の素材周回する上でかなり役立つキャラクター。
普段の台詞は言葉足らずだが、戦闘では舌打ちや小さな声でかなりえげつない暴言を吐きこのギャップに惚れてしまったプレイヤーも多い。
そして自動戦闘で急に近距離接近してからの0距離攻撃の戦闘スタイルから”魔法剣士の方が強いのでは?”と数少ないが言われてきた普通のキャラである。
そして主人公の大きな■■■に堕とされてハーレムの一員になる予定のヒロイン。
尚、R-18な同人誌ではゴブリン、何処からか湧いてきた都合の良いおっさん、オークにミノタウロス等々の竿役達にNTRされるジャンルがかなり多い。ちなみに俺は知らずに読んで脳が焼かれました、南無三。知ってて勧めてきたあいつは万死に値する!!
以上が彼女について知っていることだ。
そしてそれらを踏まえて目の前の彼女を見てみよう。
希望に満ちあふれるキラキラお目々。綺麗な身なりとスレンダーな体型。傷一つ無くニスの光沢が眩い魔法杖。
・・・本当に誰?君本物?
そう考えているとギルド長の執務室の扉から何人かの職員が入ってきて、仮称レイプ目さんがずるずると引きずられながら室内から強制退場させられてしまった。
出て行った後も廊下から「は☆な☆せ☆!!」とか聞こえるが徐々に遠くなっていき部屋には自分とギルド長のみが残っていた。
「・・・言っただろう?あれは断れないよ。しかも公爵家直々の依頼だ。もし断れば私の築いた地位も権力もパーになってしまう。」
ため息をつきながら諦めろと目線に孕ませながらこちらに向き直り話し始めた。
「・・・そもそも公爵家に娘が居たのか?大枚叩いて得た情報では男二人としか聞いていなかったが?」
ただただ自分が知らなかった情報が本当なのかを目の前のギルド長に聞く。
「・・・・・・・・・。ここだけの話だが、あの令嬢の母親は貴族出身では無い。庶民のメイドが出身だ。何十年か前にメイドに夜這いして出来たのがあの令嬢だそうだ。無論、母親が庶民なのだから本来貴族位の恩恵はないのだが・・・。」
「無いのだが…?」
躊躇は見せながらも質問に答えたギルド長。中途半端に区切りをつけ少し溜めてからこう答える。
「…何ヶ月か前にな、長男・次男含む家督継承者が連続して事故死してな、特例で彼女に貴族位の継承権がでたらしい。そしてその事故なんだが…先日お前が殲滅した魔王軍の斥候部隊がいただろ?あいつらが原因らしい。」
………こんなの予測できるわけ無いじゃん……。