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88話

 そこから一時間ほど経過。シシーが静かに目を覚ます。


 脳が一瞬で巻き戻す。どうやら今回も生き永らえてしまったらしい。かなり危険だった。しかし結果は生きている。まだ全身の怠さや節々の痛み、吐き気などは残るが、かなりよくなったようだ。薬は本物だったか。


「とんでもないことしてくれるね。こっちもいつ頃元に戻るやら」


 壁にもたれかかって座り込む少年が、目を覚ましたシシーにぼやく。まだ体調は最悪。寝ることもできず、延々、深呼吸を繰り返していた。それでも少しは良くなったほうか。喋ることはできる。


「なんで毒を仕込んだの?」


 手を握ったり閉じたり、感触を確かめるシシーに言葉を投げかける。


 投げかけられたシシーは、心の中で「とりあえず歩けそうだな」と確認して、少しできた余裕で少年の問いに返す。


「怪しい人物の家に入ったら使え、そう教えてくれたヤツがいてな」


 服を整え、帰る準備。時刻は……一九時といったところか。急いで帰ろう。開きっぱなしになったカバンを手にし、その中からユーロ札をテーブルの上に置く。


「なるほど。いい友人をお持ちだ。で、なにそれ」


 それ、とはテーブルの上の紙幣のこと。少年は訝しむ。


 これか? とシシーは手持ちの紙幣を全て置き、雑だがまとめる。合計で三〇〇ユーロほどか。冷めた目で少年を一瞥した。


「なかなか楽しませてもらったからな。これは席料だ。『男なのか女のかわからない』、『強いのか弱いのかよくわからない』、たしかにあの妖怪の言う通りだ」


 そこでやっと目に輝きが戻る。楽しい。待っていたものは、このヒリついた感覚。偉人の描かれた紙は、こういうために使う。そして、自身で落としたチェス盤と駒を全て拾い上げ、テーブルの上へ。来た時のように。


 シシーが駒の最後のひとつを置いたところで、少年が提案する。


「どうする? 続きをやるかい? 僕は構わないよ。強い相手と戦いたかったんだろ?」


 ようやく立ち上がれるほどまでには回復した。脳も正常。腕は若干の痺れ。相手の毒のほうが明らかに強い。それでも、やるというなら逃げるつもりはない。


 チラッと少年を確認したが、シシーはすぐに玄関へ向かう。


「帰る。万全じゃないだろ、気が乗らない。明日の本番で叩き潰す。じゃあな」


 足取りは弱々しいが、気迫だけはお釣りが来るほどに戻ってきている。それに、今こいつに勝っても面白くない。途中でいらん茶々が入ったが、それはそれで面白かった。本番も楽しませてくれ。


「あ、ちょっと待って」


 立ち去るシシーの背中に、少年が声をかける。

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