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82話

「……全然わっかんない。キャスリングってなに? アンパッサンて? あー、もう……」


 自室にて、帰宅してひと息つきながら、部屋着でベッドで転がるのはララ・ロイヴェリク。とりあえず、せめてスタートラインには立とう、とチェスのアプリを携帯に入れてみた。が、専門用語が多すぎて、なにがなんだかわからない。初心者用のコンピューターと勝負しながら、探り探り駒を進める。


「負けた。面白くない」


 レベル二のコンピューターに惨敗する。最高レベルは三〇。先の長い話だ。きっと、シシーは三〇でも相手にならないのだろう。仰向けで握っていた携帯が、手から滑り落ちる。顔の横をポスン、と叩き、スプリングで若干バウンド。


「終わり、はい終わりー」


 目を閉じて眠りに入る。そもそもが自分には、頭脳戦というものが向いていない。サッカーとか水泳とか、わかりやすい競技のほうが観戦してても面白い。こういったボードゲームは、駒の数は勝ってても、戦況が悪いだのなんだの、パッと見でわからない。


「とりあえず寝よ」


 しかし、瞼の裏にはシシーがいる。ような気がする。光が集まって彼女を形作る。それに、SNSでチェスを始めたと報告してしまった。


「……とりあえず、ジオッコピアノってのと、ルイ・ロペスってのから……」


 自らを奮い立たせて、千里の道も一歩から。


「負けた。面白くない」


 今度はレベル一に。なんとなく、コンピューターも申し訳なさそうにしていた気がする。「え、勝っちゃうけど……いいの?」みたいな。


「今度こそ寝る」


 目の端には涙が浮かぶ。コンピューターに負けて悔しいとか、そういったものは微塵もない。だが、チェス自体に自分が負けているというのが悲しい。


「……早く帰ってきてよ……」


 そして右手が強く、シーツを握った。

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