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8話

 棋譜を解析するが、やはり八手目が分かれ目だったとコンピューターは言っている。しかし、安定した勝ちよりもハイリスクハイリターンをシシーは求めている。そして、勝敗にもリスクを定めていた。


「マジか。あー……いや、自分で決めたことだ。やるか」


 ベッドに一〇秒ほどうつ伏せに寝た後、気を取り直して罰を受けにいく。部屋を出ると、目の前には他のルームメイトの部屋。鍵が開いているということは、部屋にいるということだろう。二度ノックをして、返事が返ってくる前にドアノブに手をかけた。


「ララ、入るぞ」


 シシーの自室と同じサイズの部屋。クローゼットには服がぎっしり。ララと呼ばれた女性は白いドレッサーのイスに座りながら、ルームフレグランスをセットしているところだった。ガラス製のボトルにはピンク色の液体。スティックとプリザーブドフラワーのカスミソウが刺さり、バラのような淡い香りが、ドアを開けた瞬間から漂ってくる。否、ドアの前から若干漂っていた。


「負けたの?」


 そう尋ねてくる女性は、ララ・ロイヴェリク。年齢は二三。本業はモデル。ドレッサーのイスに座っているとわかりづらいが、一七〇センチ近い長身とスレンダーな体型、八から九頭身はありそうな小顔。珍しい翠眼も相まって、容姿はネット上では『天使』と称される透き通った美しさ。帰ってきたばかりのようでまだメイクは落としておらず、最近はオルチャンメイクを勉強中とのこと。


「ドローだ。いや、ドローも負けも一緒だ。どっちでもいい」


 投げやりにシシーはベッドに座る。勝ちきれなかった時点で負けでいい、と自分なりにネットチェスではルールを決めていた。そうでなければ、ただの時間の浪費になってしまう。


「私はかまわないけど。ま、相手には感謝しようかしら」


 そう言いながら、ララはシシーの隣に勢いよく座った。スプリングでお互いに一瞬、宙に浮く。


「三〇秒な」


「わかってる」


 シシーがララに秒数の確認を取り、目を瞑った瞬間、押し倒され、唇を奪われた。ついでにパジャマも脱がされる。


「んっ」


 表情を変えずにシシーは心の中でカウントダウンをする。しながら、冷蔵庫に野菜なにが残ってたっけ、今日当番なんだよな、と考えた。野菜があればポトフか。ビールはなにがあったっけ、というところで三〇秒。経ったがララは離れない。ので無理やり引き剥がす。


「終わり」


 そそくさとパジャマを着替え直し、シシーは出ていこうとする。罰ゲーム終了。次は勝つ。そのためにも、同じ流れになったらもう少し攻め気を自分から出してみよう。と思考していたところで再度押し倒される。


「それはそっちのルール。私のルールは違う」


 艶のある笑みで、ララは至近距離から自分ルールを押し付ける。彼女はレズビアンであることを公言している。SNSでも隠すことはしない。むしろ中々、声を大にして言えない人達からも指示されているそう。


「チェスの続き、やりたいから。ありがと」

続きが気になった方は、もしよければ、ブックマークとコメントをしていただけると、作者は喜んで小躍りします(しない時もあります)。

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