74話
「で、仕合っていつなの? 私が観れる時間帯?」
ベッドの上でゴロゴロと転がるララが、服を整えるシシーに声をかける。
ルイゼの家から帰宅した後、シシーがシャワーを浴びてゆっくりしていたら、結局ララに捕まり少しだけ共に過ごすことに。時刻は七時二〇分。そろそろ出たい。が、なかなか離してくれない。最近の乱れ方に気づいて妬いているのかな、と捉えた。それにしては、彼女の性格からしたら大人しい。気づいていないのかな。
「観てもたぶんわかんないと思うから。いいよ、勝てるかわかんないし」
あまり観てほしくない、というのがある。恥ずかしいし、どうせ仮面なんてしているとこを観られたら、なにかそういうことをう要求されるかもしれない。
「行ってくる」
そう告げ、シシーはララの部屋を後にした。
「……」
パタッ、とララは仰向けに倒れる。
「……気づいてるのに」
物言わぬドアを見つめながら、つまらなさそうにこぼす。ここ最近は他の女の香りがする。なにが原因なのだろうか。自分のせいなの?
「……ムカつく」
たしかに、ここ最近は忙しく、家にいないことも多かった。彼女と一緒にいるお金を稼ぐためなのに、これでは本末転倒だ。だが、そういう時に限って、ありがたいことに仕事が舞い込んでくる。仕事を辞めるという考えはない。これも楽しいから。
ふと、携帯を確認する。一時間ほど前に更新した写真付きのSNSにたくさんコメントがつけられている。好意的なものばかりで、自己肯定感に酔いしれるが、同時に、もし自分が年老いてもついてきてくれるのだろうか、と不安にもなる。今だけなのでは? と。
「私よりも大事なもの……」
シシーにとってチェスはそういうもの。全てを忘れて快楽に溺れるより、イスに座って唸りながら、相手の王様を狙う遊戯。そちらに関心を奪われている。いや、チェスというより、その先にあるなにか。チェスはただの手段に過ぎない気がする。何かを求めている。
今日もこの後、九時には家を出て、一〇時には現場入り。その後着替えやヘアメイクなどをして撮影。一八時頃には全て終えて帰ってこれる。それまでに彼女は、他の女のところに行かずに、我慢できるだろうか?
「……よし!」
再度SNSをチェックし、気合を入れ直す。そしてアプリのダウンロードを開始した。




