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73話

 最近、起きた瞬間、ここがどこかわからないことが度々ある。そういう時は大抵、隣で知らない女が寝ている。


「……またか」


 適当に声をかけられた女と、シシーは特に躊躇もせずに寝る。もう何人、こういう関係になっているのかわからない。朝の六時までには体のサイクルで目が覚めるので、学校には遅れたりはしない。制服は選択制なので、私服で行っても問題はない。今日は五時に起きた。


 相手の家だが、服を着て勝手にコーヒーを淹れる。少しずつ香りがしてくるのもまたいい。かなり綺麗な部屋だ。広さはそこまでではないが、物も少なく、テーブルの上の花瓶の花、カーテンの淡いブルー、壁にかかった絵画。なかなか趣味が合いそうだ。小さく灯る間接照明に照らされながら、二日酔いの頭で記憶を呼び戻す。


「……たしか、ビアホールで飲んでたら、声をかけられたのか。やっぱり多いな、こういうの」


 そのまま近くの相手の家へ。そして体を重ねて、今に至る。愛もなにもない。たしか……ルイゼ、と言ってたか。彼女はどうなのだろうか。俺に恋愛感情はあるのか、それとも一緒なのか。いや、どっちでもいい。どうせこれで終わりだ。


 コーヒーを飲みながら、ふと、ルイゼの顔を見つめる。失礼な話だが、決して美人という顔立ちではない。そして若干、いや、それなりにふくよか。モテる、という感じは皆無。改めて、ララは綺麗なんだな、と感傷に浸る。


 なぜ声をかけられたのかはわからない。聞かなかったし、どうでもいい。貪るように体を求められたのは、自分で言うのもなんだが、この体が羨ましかったのだろうか。もう止まったが、噛まれたのか口の中に血の味もした。少しヒリヒリする。


「先に出るよ。戸締りできなくて悪いね」


 カップをシンクに置いて、一応は声をかける。連絡先も交換していないし、また来るつもりもない。もしどこかで会ったら、その時はその時。静かにドアを閉める。


 相変わらず、誰かに触れられるのは、吐き気がするほど嫌なもの。時々、首を絞められることもある。死ぬのは仕方ないが、それよりも生きてしまった場合、誰かにその痕を見られたらややこしいな、と遠のく意識の中考える。そして、生き永らえてしまった時に思う。本当は死んでいて、今は夢を見ているんじゃないか? と。


 しかしその後、現実らしきことが始まって、生きていると実感してしまう。結局は、殺してくれる人なんていない。だが、ただで死ぬのもつまらない。生きていたいと懇願するようななにか、それを感じたまま果てることができたら。チェスは、そう感じさせてくれるのだろうか?

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