表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/335

66話

 青に変わった信号を、ウルスラが進む。


 それを二人の少女が、離れたビルとビルの隙間から、その姿を見ている。同じ学校の制服に身を包んでおり、ひとりはケーニギンクローネ女学院の模範生、シシー・リーフェンシュタール。もうひとりは、ひとつ下の学年、つまりウルスラと同じ年齢の少女、アリカ・ラットヴァイン。白衣のような丈の長い改造制服を身につけている。


「な? 消えてるだろ? 実験は成功だ。これでひとまずは区切り」


 冷え切ったアリカの目は、ウルスラを追う。心の中で「ありがとね」と、ニヤけた笑顔で感謝を述べた。


 訝しみつつ、シシーはアリカに問いかける。


「……どういう原理なんだ? 副作用なんかも気になるね」

 

 ウルスラの辛い記憶を消す。というのは建前で、アリカの目的は『記憶を消す毒』を作り出すこと。その実験。モルモットに彼女を選んだ。そのために、彼女の恋心をシシーに利用してもらう。ただ、ギャンブルに依存してしまったのは想定外。


 だが、よりよい研究結果が出た。前回からの改良が生かされた形。結果に満足したアリカは、シシーに教授する。


「まず、記憶というものは『タンパク質』だということ」


「どういうことだ?」


 よくわからない説明に、その分野では無知なシシーは説明を求めた。


 全生徒の憧れ、と言ってもいいシシー・リーフェンシュタールが、自分にすがる。その様に、笑みを浮かべてアリカは饒舌に語り出す。


「人間の記憶の機能というのはまだ、完全に解明されていないわけだが、脳の『ベータアドレナリン作動性受容体』という部分が関係している、と言われていてね」


 脳のブラックボックス的なことを話すのは楽しい。いつか掻っ捌いて、ひとつひとつ疑問を実験で明らかにしたい。


 全くついていけなさそうな話になると予想したシシーは、先に断りを入れておく。


「ま、深くは聞かないよ。どうせわからないし」


 専門的な知識はない、できるだけ簡単によろしく、とアリカに依頼する。


 それを聞き、アリカはニヤッと笑う。


「その受容体に、情報を持ったタンパク質が結合することで、脳にとどまる、それが記憶。くらいに覚えておけばいい。正確にはシナプスなどが関わってくるが、必要ない知識だ」


 無意識に舌なめずりをする。内容は複雑だが、その表情は官能的で、脳や毒について話しているときは頬が赤らむ。


 反対に、無表情で冷静にシシーは分析した。


「その特定のタンパク質を分解する、ということか」


 ウルスラに与えた二種類の毒。それを思い出し、合点がいったようで納得した。


「そういうことだ。理解が早くて助かる。まず、最初の毒で徐々に消していく。一気に消すと、脳に障害が残る可能性があったからな。そして次の毒で完全に消去。完全に、と言っても、ここ数日くらいと思ってくれ」


「……薬として、大々的に売ればいいのに」


 もったいない、とシシーが呟く。もし狙った記憶をピンポイントで消すことができれば、それこそノーベル賞かなにか貰えるのではないか。そしたら一生安泰なんじゃないか? 大儲けどころじゃないだろう。


 しかし、ムッとしたアリカが反論する。


「こんなものが認可されるか。それに、アリカは薬が作りたいわけじゃない。最終的には毒として使用するためだ」


 裏で取引される『毒』。なにも殺害するだけが目的ではない。様々な用途で需要を満たす。アリカにとっては、新たな毒の製造こそが生き甲斐。そのためには、シシーをも利用する。

ブックマーク、星などいつもありがとうございます!またぜひ読みに来ていただけると幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ