61話
「あ」
私は声を出してしまった。ノーリミット・テキサスホールデム。映画『ラウンダーズ』でもやっていた究極のルール。主人公のマイクがテディに一気に巻き上げられた、あの。
「いいだろう。しかしなぜノーリミットにする?」
不思議そうにおじさんは疑問を口にした。
テキサスホールデムには、数種類ルールが存在する。ベットできる単位が決まったリミット、上限が決まったポットリミット。その他、地域ごとに違いがあったりもする。その中でもノーリミットは、世界大会でも使うルール。プロでも、ノーリミットはリスクが高すぎて、不参加の者がいるくらいだ。
「なぜ? 『ノーリミットこそ真のポーカー』、だろ?」
『あの方』が鋭い視線を、おじさんに向ける。
向けられたおじさんも、くっく、と声を抑えて笑い出した。
「ドイル・ブランソンの名言だな。長くやってもしょうがない。特別ルールだ。面倒だ、チップもなし。手持ちの現金をそのまま賭ける。一万はポットしておく」
一万ユーロはポット、つまり勝者が総取りできる位置に保管される。
一万……改めてその額に、私は唾を飲んだ。負けを一瞬で取り返せて、さらに充分すぎるほどのお釣りがくる。しかもこんな賭け事なら無課税。
決まったルールを飲み込み、『あの方』はいとも簡単に了承した。
「いいよ。一回なら、ブラインドは二〇〇ユーロでいいか。さっさと終わらせるためにもね。ディーラーとかはどうでもいいでしょ。プリフロップでのフォールドは一〇〇ユーロ。どう?」
ブラインド、つまりプレーする最低金額のようなもの。自分の時のように、ちまちまとやるのとは違う。一気に勝負がつく額。ゲームが始まる。
まずはプリフロップ。本来ならディーラーがいて仕切るのだが、今回はいない。なのでイカサマがないように、お互いにカードをシャッフル。そして上から二枚ずつ取る。もしこの二枚が弱いと感じたら、ベットが嵩んで負けるよりは、傷口が広がらないようにここで降りることもできる。
『あの方』は二〇〇ユーロをテーブルの真ん中に差し出した。本来なら、もっとたくさん人がいればボタン、スモールブラインド、ビッグブラインドなど、ややこしいルールがあるが、二人なのでそのあたりは適当だ。
「コール」
おじさんはもし、手札が弱いと感じたなら、一〇〇ユーロ払えばやり直しにできる。その場合は、そのまま『あの方』の懐にいくが。しかし降りずに同額の二〇〇ユーロ、テーブルに。これで参加決定。
「レイズ四〇〇」
さらに『あの方』がベットを上げる。二〇〇ユーロ追加。
「コール」
おじさんも乗ってくる。二〇〇ユーロ追加。
ポットは八〇〇ユーロと一万。もうプリフロップだけでも、私がやっている額とは違う。これが本当の賭博、なの?
「フロップだ。三枚カードを表にする」
続いて、ここでカードを三枚、山札から表にする。ハートの8、ハートの9、スペードのA。
「ベット五〇〇」
『あの方』がベットを釣り上げる。追加で五〇〇。
「コール」
おじさんも追加で五〇〇。
これでポットは一八〇〇と一万。
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