59話
「……ありがとう……!」
絞り出すように、母に感謝した。全然布団から出てこない私を、母は怪しんだだろうか。それとも、なにか察してくれたのだろうか。
「明日は早く起きなさいよ」
それだけ言って、ドアを閉めて出て行った。
また、真っ暗闇になる。でも、温かさは残っている。
「うん、うん……!」
聞こえてはいないだろうけど、明日の朝は早く起きる。約束する。そして、勉強も頑張る。嫌いなものも残さず食べる。今までは結構適当だったけど、お母さんの誕生日には、必ず喜んでもらえるように。
「うん、うん……!」
もう一度約束する。いつか、落ち着いたら今回のことを話そう。そうだ、一緒に旅行にも行こう。書店のアルバイト代で賄う。そのために頑張る。宣言しよう。お母さんから貰ったこの身体を大事にする。朝も早く起きて、勉強も頑張って、残さず食べて、笑顔を絶やさず、それからそれから——
「だからおじさん、言ったんだがね。もうやめときなって」
「……最、悪」
マフラーを売ったお金で挑んではみたが、結果、負けた。全額、初日のおじさんにまた。勝ってマフラーは買い戻せばいい。そう考えてはみたが、結局ダメだった。昨日、なんの宣言してたっけ? 思い出せない。
「残念ながらギャンブル依存だ。かわいそうに。おじさんの知り合いにもいるけど、難しいんだこれが。ま、頑張って」
おじさんは応援してくれた。優しい人。しかもなんだろう、情けをかけてくれたのか、その中から五ユーロ、私にくれた。帰りの電車代かな。やった、もうひと勝負できる。
「……あー……ハハハ……」
最低だ。わかってはいる。最低の人間だ、私は。でも自然と笑いが込み上げてくる。仕方ないじゃないか、込み上げてくるんだから。
「……助けて……」
誰に助けを求めてる? 誰? 誰かいたっけ? ていうか、なんでこんなことしてるんだっけ。誰のためにこんなこと始めたんだっけ。もういいか、誰でも。誰でもいい。
「……助けてよ……」
目の端から涙と、口の端から涎が垂れる。でも笑えてくる。力なくイスにもたれかかった。ライト、眩しいな。こんな眩しかったんだ。ずっと俯いてたからわかんなかった。どうでもいいや。
ふと、ライチの香りがする。
「楽しそうだね。混ぜてよ」
そんな時、後ろから、誰かに声をかけられる。楽しそう? そう見える? でも、その声に聞き覚えがあった。嘘。そんなことありえない。そう思い、振り返る。
「え——」
「スタッドポーカーか。なるほど」
時が止まる。ありえない。この方は、こんなところには相応しくない。いるわけがない。でも、今、いる。目の前に。なんで? どうして? それよりも——
「いや、あの、これは——」
見ないで。お願いだから、汚れた私を見ないで。あなたの隣にいたい……そう、あなたの隣にいたくて。見つめてほしくて。でも、今の私は……お願い、見ないで……!
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