56話
「人間、失敗して成長していくんだから。よかったね、少額で済むうちで」
「ごめんなさい……返して……!」
警察に言えば、お金は返してもらえるの? ダメ、そんなことしたら家族にバレてしまう。自宅からわざわざ離れたところで賭け事、なんて、絶対に嫌。学校にもバレてしまう。それに、四〇〇ユーロは警察動いてくれるの? 動いてくれなかったら、バレるだけ。そんなの、ダメ……! あの方にふさわしく……ない……!
「ふぅ。あのな。おじさんは注意した。見るからに慣れてなさそうだったし。賭けても一〇ユーロくらいかな、と思ってたら一〇〇とかいくし。キミも悪いことしてないけど、おじさんもそう」
「わかってます、わかってますけど……それがないと、私ッ……!」
全て、この人が正しい。注意されたことも覚えている。やめたほうがいいと促されたことも。でも、目先のお金が欲しくて、負けを取り返したくて。正常ではなかった。なんで、なんで……!
「じゃあなおさら、こんなことしてちゃダメじゃないのかね。高い授業料だと思って払わなきゃ。返してもキミ、すぐにまた同じこと繰り返すよ」
男性がため息をつく。本気で心配してくれているのかもしれない。でも、心配よりも、お金……お金が……!
「やだ……だってそうしないと……せめて……半分だけでも……ごめんなさい……!」
大丈夫、もう、やらないから……! 地道に書店で働いて、少しずつ稼ぐ……お願い……お願い……返して……!
「ダメ。ここはそういう世界なんだから。世界っていうとちょっと大袈裟か。負けたらお金を失う。おじさんだって負けて無一文になったことある。でもそれも人生」
「……」
お願い……お願い……お願い……お願い……!
「説教するのもおかしいか。うん、じゃあ気をつけて帰りな。もうこんなとこ来ないように」
それだけ言って、男性はどこかへ行ってしまった。
「……嫌……」
ひとり取り残された私は、なにも考えられず、イスに座って呼吸だけする。それにも飽きて、ふらついた足取りで外に出る。すると、心臓がドクドクと大きく脈打つ。歯がガチガチと音を鳴る。そこで、一旦は落ち着いたと思っていた、自らの過ちがフラッシュバックする。
(どうしようどうしようどうしようどうしよう)
街を歩く人々にどうしたらいいか、聞いてしまいそうになる。そんなの意味がない。でも誰に、なにをどうすればいいのか、なんでこんなことになったのか、話を聞いてもらいたい。いや、そんなことできない。
(なんでなんでなんでなんでなんでなんで)
わけもわからず、気づいたら路地裏にいた。頭を冷やしたかったのか。わからない。ただ、人のいないところに行きたかった。うずくまって顔を覆う。
(取り返さなきゃ取り返さなきゃ取り返さなきゃ取り返さなきゃ)
もうやらない。もう、絶対に……やらない……! もう……やら、ない……!
翌日。
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