55話
ドイツという国はカジノや賭博について、曖昧な部分が多い。というのも、連邦制の国家であるため、州によって法律にバラツキがある。国家は国民の射幸心を、適切な方向に向かって導くべき、とされている。完全に根絶するのは不可能として、ある程度は認めて反発を防いでいる。
とはいえ、賭博に関して最高位に存在するものが、全ての州で統一化された『賭博州間協定』。細かい抜け穴を、各州のカジノ法やゲームセンター法などで埋めているのが現状だ。共通しているのが、『適切な範囲内』での賭博は個人間では認められていること。
†
「人生、そんな上手くいくはずないだろって」
「……」
初めて会った中年の男性に、私は人生について諭されている。
自宅アパートのあるノイケルン区とは、少し離れたパンコウ区。天井から照らす光は若干のピンク色が混ざり、怪しめな雰囲気を醸し出すビアホール。店内の中央には大きなステージがあり、アマチュアロックバンドが演奏している。かなり騒々しい。それ以外にも踊り狂う若者もいれば、どちらが多く飲めるか、なんていうしょうもない遊びをしている青年達もいる。
「まぁ、軽い気持ちでやってみたんだろ。そろそろ悪に少し憧れる年頃だし。わかる、おじさんもそうだった」
「……ごめんなさい」
あれ? 何でこんなことになってるんだっけ? 謝りながらふと、我に返る。たしか、ビアホールは仲間内とかでも軽めの賭け事をやっているイメージだったので、それにつられて行ってみた。一応、自宅から離れたところならバレないだろうと思って。そしたら、予想通りやっている人がいたから、声をかけてみたら、ぜひやろう、ってなって。
一回五ユーロとかだし、ポーカーはルールはなんとなくわかるし、いいカードがくるかは、運がいいか悪いかだけだと思ってたから、もしかしたら勝てると思って。最初は勝てたから、少しずつ欲が出て、ベットを上げていったら、いつの間にか負けてて。お財布の中身、全部なくなっちゃった。
「いや、謝る必要はないよ。キミは悪いことしてないんだから。賭け事は少しなら合法なことは知ってるだろ?」
「……ごめん、なさい」
貯金をATMで確認したら、一五〇〇ユーロほど。その中から四〇〇ユーロくらいは持ってきた。それがほんの一時間ほどで全部なくなった計、算……? え、嘘。嘘。嘘でしょ?
「最初少し勝てたから、いけると思っちゃった? これね、教科書通りの初心者狩り」
「……ごめんなさい……!」
ようやく、頭が追いついてきた。一ヶ月弱の給料、全部使ってしまった。あれ? 少し体が震えていることに気づく。なんで、なんでこんなことになってるの? 嘘。嘘。わからない。謝るしか、でも誰に。この人に謝れば、返してもらえるの? 嘘。嘘だって。
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