45話
「もう閉店ですよ。お帰りください」
その店のアルバイト店員、ハンス・ヨアヒムは憧れのミュージシャンを真似て、リーゼントヘアにしている。店のオーナーも、別に気にしていないので、それがまかり通る。勤務の日は閉店の作業を任されており、掃除、お金の確認、その他色々あるため忙しい。だからこそ、いつまでも、もう二時間近くなにも注文せず、ただうなだれているだけのお客は迷惑でしかない。かなり前にも声をかけたが、再度声をかける。
「チェス盤も片付けますよ。いいですね?」
男から返事はない。なにか悪夢でも見たのだろうか。三面あるチェス盤を見てみるが、あまり詳しくないハンスには対局が終わってるな、程度にしかわからない。
「……なんなんだ……アイツは……」
崩れたスーツの男が小声でなにか漏らしたようだが、店のBGMに掻き消され、ハンスまで届かない。酒のグラスと、チェス盤と、チェスクロック。少しずつ片付ける。
「……強すぎる……」
またも、なにか小声で震えながら呟き、頭を抱えた。
「……化物……」
三面のチェス盤。それぞれ一八手、二〇手、一七手で時間を大量に残しての、圧倒的な攻めでの無慈悲なまでの勝利。その勝者はもう、ここにはいない。
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