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44話

 その後、すぐにビオツィッシュが運ばれてきた。バーテンダーも特に声をかけることはなく、無言で置く。なんとなく空気が重いのを理解したのか、すぐに引っ込んでいった。よく冷えたビオツィッシュを、シシーは一息で飲む。ラズベリーの香りと味が、火照った全身に染み渡る。一気にいきすぎて、口の端から少量こぼれ落ちる。飲み終わり、俯く。そしてまた一〇秒ほど沈黙。


「……学校では優等生で通ってるんだよ、オレ。品行方正で成績も優秀だ」


 唐突に口を開いて、会話をシシーは始めた。内容は学校生活。


「そうか、俺とは正反対だ。で、何の話だ?」


 デトレフスは真っ当な反応をする。突然意味のわからないことを喋り出した女に少しは相槌を打つが、特に続ける気はない。自分の子供の頃と境遇も違いすぎて、同調もできない。


 気にせずシシーは話し続ける。


「それが、賭けチェスで大負けして、リベンジするために体まで売って金を作って、その時に気づいたんだ」


「だから、なんの話だ」


 と、そろそろ会話を打ち切りたいデトレフスが強めの口調になったところで、シシーは顔を上げた。


「命のかかったチェスは、違う生き物だ。賭けチェスはオレの命。マスターへのリベンジを果たす前に終わるなら、それはオレが死ぬということ」


 全くもって何の話だ? と、最初から最後までよくわからない話を聞かされて、デトレフスは呆れた。


「それを……賭けていいんだな?」


 詰め寄るように、感情のない顔で再度シシーは確認を取る。


「いい。お前は今日で終わりだ。なんなら三面指しでいい。延長戦もこれならないだろう」


 もうひとつチェス盤とクロックを店から借りて、デトレフスは用意する。さっさとケリをつけて、帰って酒を浴びるほど飲んで寝よう。そのためには、先ほどの対局よりも、さらにギアを上げる。


「来い。全部白番をくれてやる。さっきの対局よりも本気だ。早く指せ」


「そうか」


 彼は全部、攻めに有利な先手をくれるらしい。さらに、先ほども充分強いと思ったが、まだ底を見せていなかったとのこと。なんてことだ。あぁ。


「感謝する」


 心の底から、笑みが溢れた。

続きが気になった方は、もしよければ、ブックマークとコメントをしていただけると、作者は喜んで小躍りします(しない時もあります)。

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