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41話

 淡々と、男は手を進めつつ、喋りも淀みなく受け応える。強さを目指しているわけではない。生きるために強くなっただけ。そういった意味では、この子供は今、自分の脅威になりつつある。邪魔だ。


「あぁ、そっか。でもあんたがどんなスタンスでやろうといいよ。オレが勝手に楽しむから。ま、マスターから制限はされてるんだけどね。死ぬな、って」


 (B)盤では、お互いのキングが前に出つつある。手駒が少なくなってきており、キングが動き回る。こうなると、なかなか勝負はつきづらい。


 盤面に集中しつつも、男はシシーを睨みつける。ことごとく手が跳ね返される。が、それよりも感じた、この少女の内面。


(こいつ……危ういな)


 その男、デトレフス・ホルツマンにとって、チェスは生きる道そのもの、と、間違った形成の仕方でなった。複雑な家庭環境で育った彼は幼い頃から悪行に手を染め、その度に警察に捕まり、最終的には暴行罪で収監されることになった。何事にも無気力で、自分は一生このまま生きていくと匙を投げ、陽の当たる生き方を諦めた時、少年刑務所で仲間から教わったものは『チェス』だった。


 もちろん、オープニングやディフェンスなど気にもしない、やりたいように指す遊びであったが、元から凝り性でもあったデトレフスにとって、お金もかからず、合法で、やればやるほど強くなっていく感覚が、彼の血を入れ替えた。チェスの指南書を読み、指し、また読み、指しを繰り返し、彼の悪道を修正していった。


 今度こそ真人間として生きるべく出所したが、なかなか刑務所から出てきた者を良しとして働かせてくれるところはなく、次第に金は底をつき、危険なギャンブルに手を染めることとなる。それが『賭けチェス』だった。海外での代打ちや賭場漁り、違法な額でのチェスをメインとして、糊口をしのいできた。腕を必死に磨き、自身の強さにプライドも持っている。イタリア、ボルゴ・ヴェッキオ地区でのマフィアの代打ちの際は、銃を突きつけられながらのチェスすら経験した。その彼が。


(こいつから……危険な匂いを感じる……)


「お前は……なんだ?」


 質問してから、デトレフスは自身に「何だその質問は」と自虐した。だが、聞かずにいられない上に、他の聞き方がわからない。


 それはシシーも同じようで、眉根を寄せた。


「なんだって、なにがだ? 見りゃわかるだろ、ただの女真剣師だ」


 数分前と比べても、纏ったオーラのようなものが、よりドス黒くなってきている、とデトレフスは感じた。強くなった、というより、より危険を冒して勝ちに繋がる手を模索している。ノーガードで打ち合うような、攻撃的なオーラ。

続きが気になった方は、もしよければ、ブックマークとコメントをしていただけると、作者は喜んで小躍りします(しない時もあります)。

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