37話
「それが噂の。案外普通なんだな。もっとぶっ飛んだルールでくるかと思ったのに」
それこそ『店にある一番強い酒を飲みながら』や、『大音量の中』など、めちゃくちゃなルールを予想していたシシーは若干肩透かしをくった。あまり馴染みのないルールではあるが、いつもより時間を使っていいだけ、と深く考えるのをやめた。実際にはそれが大きく違うのだが、今更どうしようもない。
男にとっては、それが一番やりなれたルール。ブリッツが主の真剣師とはいえ、人によってもちろん違いはある。スタンダードが得意な者もいるし、フィッシャーや、五分ルールの超急戦が得意な者も。まず、自身の勝ちへの土台はできた。
「捻るほどのことではないだろ。平等が原則だ。おら、そっちも早く言え」
どちらかに明らかに有利になるようなものは、相手に拒否されることがある。ならば、男は適度なところを見極め、うまくまとめること。本当は三〇分の方が得意ではあったが、そこはいい。二〇でも充分すぎる。
「色々考えてきたんだけどな……」
と、シシーは難しい顔をして、右手でピースサインを作る。
「『二本先取』でどう? まぁまぁデカめな賭け事だ。一本で終わっちゃ面白くない」
予想の範囲内だ。一本負けてもまだなんとかなる、という保険が欲しいのだろう、と男は予想した。そのあたりはまだ子供だ。だが実際には、一本取られた後の二局目は、緊張やプレッシャーから自滅することが多い。慣れていなければ見るに堪えない対局になることもザラにある。
自分に不利はない。むしろ、なんでもありの真剣師ルール。賭け金を上げる代わりに、追加でどんどん対局数を増やされたことがある。一敗でもしたら自分の負けという、圧倒的不利の中でも、勝ち続けてきた。
「かまわねぇよ。先に白か黒か選ばせてやーー」
「『二面指し』で」
さらっと、シシーはさらに追加した。
「は?」
今日、一番の意味不明という顔をして、男は素の声を出す。二秒ほどフリーズした。
ニヤリ、と不敵にシシーは笑う。
「『二面指し』だ。お互いに白と黒、両方で。正に平等。一勝一敗なら、一面で決勝戦だ」
意味はわかる。平等だろう。実力勝負となり、勝った負けたは判別できる。だが、文句はある。
「なんでお前だけ二個追加してんだ。どっちかにしろ」
男が当然の抗議をあげる。自分は一個。そこまでしないといけない義理はない。
頼む側にもかかわらず、なぜか不遜な態度をシシーは崩さない。
「当事者同士で相談すれば、多少の変更は許されるはずだろ? こっちは初の賭け代行なんだ、多目に見てくれ」
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