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334話

「やぁ、アニエルカさん。今日も可愛いね」


 メニューリストを閉じたシシー・リーフェンシュタールが爽やかに感想を述べた。一点の曇りもない心からの言葉。対象のその髪に触れたい気持ちを抑え、笑みを向ける。


 品行方正で才色兼備で容姿端麗。留学においても特例を認めさせてしまうほど、学院において教師からの信頼も厚い。そんな人物の休息の時。美味しいコーヒーや紅茶を味わいながら、お菓子をつまむその姿も人を惹きつける『なにか』を放っている。


 ベルリンはテンペルホーフ=シェーネベルク区にあるカフェ〈ヴァルト〉。森、を意味するその店の店内は、間接照明で薄暗く設定されている。全席ソファー席となっており、BGMなどもなくゆったりと過ごす時間。空間。


 働いている最中だというのに、その店の従業員であるアニエルカ・スピラ、通称アニーは、店内中央付近の席で話し込む。


「どうもっス。シシーさんも今日も美しいっスよ」


「ふふ。それはありがとう」


 そんな他愛もない、当たり障りもない会話の応酬。だが、無色透明なこの時間はシシーにとってとても充実したものになる。だからこそ。なんだか、この闇の中では悪いことをしてしまいそう。ギリギリの瀬戸際でせめぎ合う。


 それを遠くから見つめる視線。アニーと同じ制服を身に纏った従業員のカッチャ・トラントフ。あの子が話に夢中になるのはいつものこと。だけど。それでも。


「……あれはなに。なんなの」


 会話の相手。同い年……くらいだと思うけども。とても自分には醸し出せないような美麗さと、妖しさと、危険を孕んでいるような。そんな女性。目が合った相手を操れそうな。口元が歪む。


 わりかし、人を見る目はあるほう、だと思っている。知らず知らずのうちに、店のまとめ役みたいなポジションに任命されたし。別にいいけど。その立場から言わせてもらうと。うん。ありゃ、自覚なく人を溺れさせるタイプ。惹きつける、より溺れさせるってのがしっくりくるくらいには。

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