表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
329/335

329話

 素直に感心しているように見えて、真反対な心情を持ち合わせていること。この人はそういう人だ、とグウェンドリンはわかっている。


「本当はあなたがやりたかったんじゃないです? ディリティリオーリ・メリッサ」


 ギリシャの『毒蜂』。本名スティリアニ・グラストリス。だがもっぱら自分のことを『メリッサ』と呼ぶ。響きも可愛いし、植物で言うとレモンバームの別名。レモンバームの葉はミツバチを引き寄せる香りを放つ。全部可愛い。


「そりゃそうよ。奪われて悔しいしかないよ、ファンには。あのヤローってね。参加賞は『毎晩、性欲が果てるまで相手してもらう』って申請する。綺麗な顔してたからね、シシー・リーフェンシュタール」


 自分にはわかる。あいつも私と似た趣味を持っていることを。そしておそらく、誰かに触れられることを嫌うタイプ。そういうヤツこそいじめたい。


「リスクが上がれば上がるほど快感を得る人ですから。きっと喜びますよ」


 同じ穴のムジナというやつ。その辺は好きにやってくれとグウェンドリンは色々諦めた。盛り上げてくれればそれでいい。それよりも次の中国の毒蜂を探さなきゃ。そっちのほうが大事。


 ニヒ、っと奇妙な笑い方をするメリッサ。


「じゃ、個人的にやっていいの? ダメなの?」


 きっとヤツは受け付けてくれるだろう。そういう秘密の関係。むしろ燃える。が。


「ダメです。それじゃ賭けになりませんから」


「ちょっとも?」


 抵抗するメリッサに対して、ため息をついてグウェンドリンは再確認をする。


「知っているでしょう、プロフェッサー達はこんなどこにも公表されない勝負で、普通に暮らしてたら人生七回くらいは遊んで暮らせる額を、一回で賭けてるわけです。今回もそう。その緊張感を奪ったら。あれですよ、あれ」


 なんか、すごい、あれなことになりますよ。たぶん。えらいことに。詳しくは知らない。


 そんなことをしたら次の対局など用意してもらえないし、剥奪されるものもある。仕方ないがメリッサは従うしかない。


「ぶー」


 一応、最後の悪あがきで唇を尖らせる。精一杯。


 まるで子供だ。そんな印象を持ちながら冷静にグウェンドリンは落ち着かせる。


「レモンバームは『人を喜ばせるハーブ』なんでしょ? 奪ってどうすんですか、奪って」


 香水やお香など、様々に鎮静効果を持つメリッサ。それを冠しているのに。全く名前と行動が一致していない。


 怒られた。不貞腐れながらじーっと、グウェンドリンの頭のてっぺんから足の先まで品定め。うん、悪くない。可愛い。


「じゃ、今日はどうすんの? キミが相手してくれるのかい? ウェンディ」


 対局も見れなくて。提案も否定されて。欲求不満。爆発。今はなんとか抑えているけれども。この先はわからない。


 やっぱりこうなるか。グウェンドリンは自身の服に手をかける。


「……仕方なさそうですね……」


 そう、仕方ない。だってこの身は。全て。毒蜂に捧げると決めているから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ