322話
あぁ、自分は罰を受けるために、こんな賭けを続けていたんだ、と。長い道のりだった。許せ、とは言わない。許してもらうためではないから。自分が自己満足を味わうためだけだから。
すると、スピーカーになっていたグウェンドリンの携帯から、プロフェッサーと呼ばれる者の声。怒りでも悲しみでもなく。淡々と。
《わかった、受け入れよう。今までご苦労様。キミを失うのは痛手だが、感謝している》
しかし所詮は使い捨て、と割り切った風でもない。労いの色も見せつつ。そこで音声は途切れた。
ふぅ、とひと段落ついたドゥ・ファンは、今から自由の身、と気持ちの余裕を噛み締めつつ。この先の未来を憂いつつ。この場を作ってくれた、座り込んだ女性に感謝しつつ。
「……すまないな」
そう、声をかけた。相手のプライドはズタズタかもしれない。が、それもまたいい。コイツのことは嫌いだから。
一旦の状況はシシーにもようやく落とし込むことはできた。それを踏まえて視線を合わせる。
「……全く。あなたにいいところばかり取られた」
なにを言われようと。たとえ対局ではルール上は勝とうと。完全に相手のほうが上だった。この締めかたも。カッコいいね。そんな称賛しか。
「それはすまない。もう会うこともないだろう。これもくれてやる。じゃあな」
そしてシーウェンはルービックリベンジを手渡す。結局、対局中には完成しなかった。それどころかよりひどくなった気もする。普通のやつならそこそこできるのに。やはりケティはすごいな、なんてことを考えながら。
リベンジ。その名前の通り、リベンジをしなければ。それがシシーにとって、この人物にできる唯一のお返しになる。
「会いに行くよ。どこでなにをする予定なのか教えてくれ。地球の裏側だろうと、必ず」
面倒だな。嘘でも教えるか、と一瞬だけシーウェンは迷ったが、もうどうでもいいので今後のざっくりとした予定を暴露する。
「……中国に戻って中華屋でもやるさ。料理は好きなんでな。さっきの毒薬、死ぬものではないんだろう?」
生きていれば。何度だってやり直せる。それでいい。結局、死ぬまでの覚悟は自分にはなかったということ。潮時だった。
歪んだ表情でグウェンドリンは返答する。
「……えぇ、そう聞いています。それはご安心を。しばらくは体調不良などが続くかもしれませんが」
個人差があるのでよくわからないけど。死ぬことだけはない、と聞いていた。が、それでも呼吸が荒くなる。




