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321話

 だが当然、ドゥ・ファンとしては呑むつもりはない。


「負けだと言っただろう。それに、こういった対局は私には向いていない。ようやく気づいた」


 いや、最初からわかっていた。だが、辞めるきっかけが欲しかっただけ。それが今回、ちょうどいいタイミングだった。


「……プロフェッサー達が黙っていると思います?」


 言い分は百歩譲って受け止めることにするグウェンドリン。しかし、怖いのはその裏にいる人々。なにせ負けたほうに『毒』まで飲ませるような人達。勝ちを譲る、なんて自分達の庭を荒らされたようなものだろう。どうなるかはもう、わからない。


 たしかに、ドゥ・ファンとしてはその気持ちもわかる。自身の勝ちに賭けていたほうには悪いことをした。だがそれもギャンブル。勝ったと思ったところから真っ逆さまに落ちていく。諦めてもらうほかない。が。


「それなんだが——」


 と、立ち上がるとグウェンドリンのスラックスから小瓶に入った『毒』を取り出す。無色透明な液体。ロミオとジュリエットだとかいうなら、少し色をつけておけばいいのに。


 されるがままのグウェンドリン。残念ながら、ケティに飲ませることとなったその毒。


「? なにか?」


 躊躇うことなく。ドゥ・ファンは小瓶の蓋を開けた。


「私はまだ参加賞を消費していない。今決めた」


 色々と限りなく黒に近いグレーな作戦をくらった身。このくらいの気まぐれは許せ。そして小瓶の中身を——クイっと一気に飲み干した。


 目の前で起きている現実をグウェンドリンは許容できないでいる。身が強張った。


「! ちょ、なにを——」


「『罰は勝敗に関わらず私が受ける』。それでいい。そして負けたことでこの名前も廃業だ。次のヤツにくれてやれ」


 味はしない。今、まさに映画のロミオみたいに、毒を共有しようとキスをされたらどうなるんだろうな。別にかまわんが? そう、目でドゥ・ファンは訴えた。小瓶を返す。


 なんだかもう、なにがなんだかわからない。ただひとつ、グウェンドリンがわかっていることは、前例がなくてよくわからないということ。頭を抱える。


「……あぁもう、めちゃくちゃ……」


 このあとめっちゃ怒られるのかな。でもそれ私? 私のせい? おかしくない? でもその怒りをぶつけるには、この女性はちょっと怖い。


 色々と申し訳なさがドゥ・ファンにも募ってくる。悩めるグウェンドリンの頭をポン、と叩いた。


「苦労をかける。これで得た金も返す。もう私には必要ない」


 専用に口座に入っている賞金。一切手をつけていない。そっくりそのまま返すことに決めた。もう関わるつもりもないから。そこでようやく気づいた。

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