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319話

「……届かなかったか」


 目を瞑るシシー。対局を振り返ってみる。どこだ? どこかでミス、と言わないまでも、評価値を下げる手があったのだろう。感想戦、なんて素敵なものじゃなくて、ただただひとり追求してみる。


 その姿を見、ようやくドゥ・ファンは残り時間を確認。終わってほしくない、という気持ちがどこかにあって、無意識に見ないようにしていたのかもしれない。プロ失格だ。お互いに少ない。そこまで含めてこの対局は成り立っている。


「そうだな。だがいいチェスだった。AIには全く理解されないかもしれないが、これこそが何百、何千と進化を続けてきた、人を熱くさせるチェスだ。これだから面白い」


 いまだに名局と名高いアドルフ・アンデルセンとジャン・デュフーレンの一八五二年の対局。通称『エヴァーグリーンゲーム』。エヴァンスギャンビットというものの有用性を、この当時に示したことで長い間議論され、最も美しいとまで言うプレーヤーまでいるほどだが、それに引けを取らない。


 その対局も大会や選手権ではなく非公式。そういう場で生まれてしまうのも、なんだか運命めいたものを感じてしまう。


 充実感を味わいつつ、ゆったりと優しく、シシーは対局を締めにかかる。◇ルークf2。


「そうだね。だから最後まで指すよ。あなたがなにかしら間違えるかもしれない」


 人間なのだから。絶対、はない。もしかしたらなにか読みミスするかもしれない。深読みしすぎるかもしれない。最後まで諦めないのは大事。だが。


「それはない。ここからならちょっと強い程度のチェス好きでも勝てる局面だ。私は間違えない」


 時間もかけてしっかりと、万が一が起きないように。そんなものでこの対局を台無しにしてしまうことをドゥ・ファンは良しとしない。この盤面を完成させること。それを念頭に置く。◆クイーンh3。


 どうやらここからの逆転は難しいらしい。わかっていたことだが、シシーも残念そうにしつつも納得。


「まぁ、そうだろうね」


「まだなにか隠しているのか?」


 どうにも相手のことを疑ってかかってしまうドゥ・ファンは、そう攻撃的に問い詰める。こいつならなにかやりかねない。もう一度頭の中でルールを反芻してみるが、なにも見つけられなかった。


 残念ながらもうシシーといえど万策尽きた。◇ルークh2を指しながら一応は解決策を思考してみるが、さすがにどうにもならないものはならない。


「いや、もうなにも。これが演技だと思われたならしょうがないね。そちらに任せるよ」


 現在の盤面だけ見れば完全に敗北だが、どこか途中の一手でも違っていれば、また異なる場所にたどり着いたのだろう。その世界線も見てみたかった。

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