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306話

 思う通りに生きてこれたことなんてなかった。なにをもって勝ちと判断していいのかわからないが、たぶん負け続けてきたんじゃないかと思う。だから今日。ここで——。


「……強いな」


 冷静に盤面の形勢を判断するシシー。とても窮屈に指している、いや、違う。『指すように仕向けられている』ことに気づく。


 ケティがやっていたというキューブを解きながら、同時にチェスをするというもの。その景色は自分には見えそうにない、とドゥ・ファンはため息を吐いた。◆ナイトb6。


「今のお前よりかはな」


 おそらくこいつはまだ成長途中。今後さらに経験を積んで酸いも甘いも知ることができれば、自分より強くなるのだろう。チェスを知ってまだ間もない、グラグラと揺れる天秤の上にいる。強い時は強いが、弱い時は弱い。それでは世界では勝てない。


 お互いに数手進む。ここまでは完璧に近い。だがチェスというものは、たった一手で戦況は変わる。相手の仕掛けるタイミング。そこに対する準備。いかに相手そのものに成り切ることができるか。上から俯瞰するように。逆から見渡せるように。


 相手のリザインを聞くまでは何度でも。油断。それこそが一番厄介。


「お待たせしました。モンローマティーニです。味の文句は言わないでくださいね」


 傾いた流れをリセットするかのようなタイミングでグウェンドリンが提供に来る。ショートなのでさっさと飲んでください。


 前のめりに盤面を覗いていたシシー。一度姿勢を正す。


「……あぁ、ありがとう」


 あのままではただただやられるだけだった。ここで持ち直せればいいが。受け取ってそのままひと口。まぁまぁ美味い。いつもより舌が敏感になっているのか、やけに繊細に感じる。


 そのままチラッと盤面を覗くグウェンドリン。カウンター内でもカメラを通して観ていたが、実物はなんというか、二人の空気感のようなものも相まって呪物のように見えて仕方ない。


(あちゃー、こりゃギフトビーネにとっては難しい盤面だね。つーかファン。強すぎ。こりゃ決まったかな)


 ジロジロと見るのも悪いので、ささっとドゥ・ファンのぶんもテーブルに置いてカウンター内に戻る。あとはたぶんやることはないと思うので、本格的に観戦といく。さて。ドイツの毒蜂さん——


 ——もういいんじゃない?


「だから言っただろう。勝てる可能性もないこともないがな。千回に一回くらいだ。九九九回対局してから今日に挑むんだったな」


 チェスとは非常にミスの多い競技。特にブリッツやラピッドといった短時間のものであれば特に。その中でいかに最善手を見つけられるか。それが勝つために必要なことだとドゥ・ファンは学んできた。

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