299話
「どうなるかわかっているのか? 金ではどうにもならないことになるかもしれないんだぞ」
たった一度、バーで酒を飲んだだけの関係。それなのに、ドゥ・ファンの頭から離れない。チラついて。あいつの影が。
自分の臨戦態勢は万全なのに。相手の『迷い』のようなものを感じて少々苛立つシシー。口調が荒くなる。
「何度も言わせるな。なら俺を勝たせるかい? キミにとってケティというのが、ララの代わりにどうなってもいい存在ならね」
どういう風に身辺調査をしたのかは知らないが。俺にとってのララと同じように、彼女にとってもかけがえのないものなのだろう。だからこそ。失いたくないからこそ、戦うんじゃないか。覚悟が足りない。
もはやコイツらになにを言っても通じない。ならばドゥ・ファンのやることはひとつ。
「……クズどもが……」
その発言にちょっとだけ傷つくグウェンドリン。なんだかまとめられているような気が。
「……ども? 私も入ってます? でもそういう覚悟がなかったなんて意外でした。あの子に奪われる前に、って言ったのはあなたですよ?」
あの人物が先に接触しちゃう前に。横取りされる前に、って言った言質はとってある。その甘さが悪いほうに働かなければいい。
怒りはある。だがここで爆発させても仕方がない。そういう次元の話ではない。だからこそ。覚悟を決めたドゥ・ファンは。
「……お前達にはなにを言っても無駄だったな。始めるぞ」
不純なものを全て凝縮して。小さく、それでいて無くさないように。心の中にしまう。
圧。そんなものが本当にあるのだとしたら。シシーはそれをこの瞬間、感じた。
「集中できるのかい? 俺は勝つためならどんな手段だって使うぞ。あんただってそうだろ?」
だからこそ煽る。強さも弱さも。全て味わうために。早く指したくて。手に力が入る。
「さぁな」
自分は。コイツらとは違う。違うと確信するために。ドゥ・ファンは——。




