298話
なんて無駄な努力。それと同時に、そういう遊び心はシシーは好き。
「だそうだ。結局やるしかないんだ。さぁ、座りなよ」
先にソファーに腰掛け、手で地獄への道へ誘導する。一気に緊張感が増してきた。待ち望んでいたもの。
まだ、自分の中では消化しきれないドゥ・ファン。揺れていることは自分でわかる。この気持ちのままでは。吐かせられるだけ情報は吐かせたい。
「……誰と誰が受けるんだ? それくらい教えろ」
嫌な予感しか。しない。外れてくれ。そう願うだけ。
気になりますよねぇ、と一応グウェンドリンは携帯で連絡をとる。相手はもちろんプロフェッサーと呼ばれた人物。
「えーと……いいんですか、言っちゃって。オッケー? オッケーだそうなんで言っちゃいますと。『ケティ・ルカヴァリエ』さんと『ララ・ロイヴェリク』さんだそうです。ん? なんか聞いたことある名前」
なんだったっけ? すごい美人なようなイメージが。
「……!」
わかりやすくドゥ・ファンは動揺した。一瞬身震い。当たってほしくない予感が的中。強く目を閉じた。
そしてまたも対照的にシシーは、主催者の心遣いに感謝する。
「ははっ、いいね。これは負けられないな」
より、敗北の危険度が増した。自分の代わりにララが罰を受ける。そんなことは許せない。負けられない。だから楽しくなる。
その軽い態度が。さらにドゥ・ファンの怒りの火に油を注ぐ形となる。奥歯が割れんかねないほどに強く噛み締めた。
「お前はなぜ笑っていられる? 大事ではないのか?」
追いかけてパリまで来てくれた相手が。ワケのわからない賭け事に勝手に組み込まれ。挙げ句の果てにはその体を差し出されている。なぜこんな他人事のように振る舞える?
妖しげな笑みはそのままに、シシーは嘘偽りのない自分の素直な心情を吐露。
「大事だよ。とてもとても。愛している。今の俺があるのは彼女のおかげだ。なにかあったらどうにかなってしまうかもしれない」
だからこそ。どうにかなってしまいそうな今の状況は。最高だ。
今にも胸ぐらを掴みかねないドゥ・ファン。侮蔑の視線。
「お前は——」
「俺が楽しむためだったら。多少の犠牲は仕方ないだろ? 運が悪かったと諦めてくれ、としか言いようがないね。きっとララも受け入れてくれるはずだ」
俺と関わってしまったがゆえ。わがままかな? わがままだろうね。そんなことより早く座りなよ。そうシシーは促す。




