表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
293/335

293話

 しかしそうではなく、シシーとしてはこの女性そのものに興味があっただけ。だからあの場にいた。


「少しあなたと話してみたかった。仲良くしたいし。確認したいこともあったし。期待外れだったかもしれないがね」


 人それぞれ、どんな想いでこの名前を受け継いでいるのかは知らないが。せめて同じ方向を向いていてほしかった。それができる人物だと信じたかったのに。


「……着くぞ」


 重く、冷たいドゥ・ファンの口調がエレベーター内に響く。そしてドアが開いた。


 到着したのはホテルのラウンジバー。この時間はすでに営業も終了しており、客はいない。上層階は客室となっているが、もし飲みたくなったらこの下の階にもカウンターバーがあるため、そちらに向かってもらう。


 黒御影石を使用した、統一感のある床と柱、光沢ある天井。広く、落ち着きのあるシックな佇まい。明かりは控えめで、より静謐さが強調され、傍のピアノ『ベーゼンドルファー』のインペリアルが鈍く輝く。展望台ほどではないが、それでもガラス窓からはパリの街並みを充分に楽しめる高さ。


 アンティーク調のソファーとテーブルがいくつも置かれ、営業時間中は様々な商談などにも使われる。その窓際のひとつ、そこにはチェスボードと駒。そしてそれをカメラや雲台、スライドアームなどで上から撮影する。


 待ちくたびれた、とばかりにそこに立っていたひとりの少女が声をかけてくる。


「どうもどうも。じゃ、チャチャっとやっちゃいましょう。撮影始めまーす」


 グウェンドリン・グラシエット。モンフェルナ学園の学生。なぜかバーコートを着ており、まるでそこで働いているかのよう。学生の労働基準の法や定義など、今この場では何の役にも立たない。


 今回、全てのセッティングは彼女に一任されている。そのため、シシーにカードや時間や場所の情報を提供したのも。ドゥ・ファンに伝えたのも。彼女から数時間前、唐突に。だが、この勝負はそういうもの。


 本来、友人と寮のシアタールームで夜通し映画を観る予定だったグウェンドリン。若干の機嫌の悪さはある。だが、こちらはなによりも優先されるため、泣く泣くこっちを担当することになった。


 また配信されるのか、と少しシシーは訝しむが、このカメラの先にいる人物が全てを牛耳っているのであろう。大体は理解できた。


「なんだか簡素なものだね。ドイツの大会のほうが色々と豪華だ」


 あちらは非公式とはいえ、世界に配信されたり、ホームページまである。なんだか豪華なホテルとのギャップがあり、可愛らしくて可笑しい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ