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284話

 イスラエルの哲学者、アーロン・ベン・ゼェヴの提唱した『シャーデンフロイデ』。直訳すると損失の歓喜、つまり『他人の不幸を喜ぶ気持ち』というものを人は持ち合わせているということ。


 本人に落ち度があり、軽度な罰が、偶然起きる。という三つの条件をクリアした時に訪れるもので、その時に蜜の味を感じる。


 だから、というわけではないが。その時、私は少しだけ望んでしまった。だってそうだろう? 勝手に部屋に来て。食料まで減らされて。なんだか家庭の問題まで持ち出されて。だから「妹から嫌われればいいんじゃない?」なんて言ってしまった。


 でも方法のひとつではあると思うし、結果として妹が生きたいように生きることができれば。大事なのは結果。だからいきなり、


「あ、私、彼氏できたから。あの子から少し離れてみようと思う。うん、いいよね。年上の人。顔もまぁまぁ好みだし」


 なんてことをヴァージニーから言われたので、口を半開きのままシーウェンは呆気に取られてしまった。


「……女のほうがいい、とか言っていなかったか?」


 そんなことまであけっぴろげに語られていた。自分も狙われているのか? そんな寒気がしたのを覚えている。どう反応すべきか迷ったのも。


 しかしこれはヴァージニーとしても、色々と考えあってのこと。数分間悩んで出した答えなのだった。


「そうなんだけどさ。あの子のためにはまず、私が変わらなきゃって思って。だから好き嫌いせずそういうことしてみようって。あの子からは嫌われる、っていうか、ちょっとずつ距離をとってみようってこと。ま、お互い大人にならなきゃねぇ」


 そうじゃないと、あの子のためにもならない。たぶん。ひとりで行動する力があって然るべき。ハリウッドスターもそうなんだから。姉としての教え。


 答えは出た。ならシーウェンとしてはひと安心。そして結論。


「そうか。それはおめでとう。これからはそっちに行け。ここには来るな」


 当然そうなる。安息こそが求めていたもの。料理のレパートリーとか。味とか。向上したけど、それは自分のおかげだから。だが。


「でね、どうやって知り合ったかなんだけど、聞きたい? 実は——」


「聞いてないぞ」


 知り合って少し経つからこそシーウェンにはわかる。というよりそうなんじゃないか、とずっと思いつつも確信。こいつは人の話を聞かない。自分の敷いたレールを先導しつつ他人にも走らせる。脱線しても「でね」で、戻される。つまりヤバいやつ。

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