271話
しかし駒には漢字が使用されており、馴染みのない国では中々に始める敷居が高い。チェスは形と色だけなので世界で広く指されている要因にもなっている。ちなみに世界大会は国技だけあって、中国とベトナムで独占されていることが多い。次いでシンガポール。
「そうなの? でもあの子、強いよ。やったことないなら無理じゃない?」
手伝ってくれるっていう気持ちは嬉しいけど。というか、そんな強引な方法でいいのだろうか、とヴァージニーは不安の色を隠せない。ボコボコに負けたら……そりゃ辞めたくはなるだろうけど。なんだかとても頭も胸も痛い。でももし、それでもやりたいと言うようであれば、本当に好きなのかもしれない。
はて。なぜ自分はこんなことを言っているのだろうか。まぁ、いつかはチェスも手をつけようと思っていたので、ちょうどいい機会だとシーウェンは軽く捉える。
「もういい? そろそろひとりになりたいんだけど」
もしあまり面白くなさそうと思ったら、今回の件は辞退しよう。学生の本分は勉強なんだから。そして卒業したら中国で施設を手伝えるような、なにかそういう企業を立ち上げたりとか。ぼんやりと。
あーそういうことそういうこと。テイよく追い払われたってことね。そこでようやくヴァージニーは気づいた。たしかに勝手に押しかけて、申し訳なかったか。それにタバコも吸いたくなってきたし。
「ふーん、ま、じゃ、頼むわ」
でも少しスッキリしたのは本当。「ありがと」と付け足して、帰りの準備。なんだか妹に早く会いたくなってきた。ケーキでも買って行ってあげよう。
「やる気がなくなったら諦めてくれ。私も暇じゃない」
立ち去る背中にシーウェンは付け足しておく。やれやれ。変なことに巻き込まれた、いや、半分は自分で突っ込んでいったのか。ほんの少しだけ部屋にタバコの香りが残る。気になるほどではないが、静かだとやけに嗅覚が敏感になる。
姉と妹の凝り固まった関係。蜂の毒は。そんな流れの悪くなった彼女達の血液すらも。




