表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
269/335

269話

 幸せ。そう言われると、話の内部に深く潜った感触をヴァージニーは得た。小声で「それは……」と漏らすと、形のないそれからはじわじわと浮かび上がってくるものがある。


「……妹のやりたいようにやらせたい。キューブもチェスも好きかもしれないけど、もっと楽しんでできるような。やりたくなかったらやらなくていい。だってこのままじゃ——」


 嫌いになってしまう。あの子が遊戯を? 自分があの子を? たぶん両方。それは嫌だ。好きでいたいし、眠るあの子を見守る。それが幸せなんだろう。


「……直接聞いてみたのか? こんなところに来てないで。そっちのが先だろう」


 それとなくシーウェンは帰ってくれと言っているつもりだが、なんとなくわかってきた。たぶん最後まで聞くことになりそうだと。


 肯定しつつ、だがヴァージニーの心のモヤモヤはまだまだ巨大化していく。


「たぶんよくわかってないんだと思う」


 まだあれくらいの年齢では、とりあえず言われたことや、敷かれたレールの上を歩むことになんの疑問を持たないのだろう。だからこそ胸が痛いわけで。自分は、自分には姉とかいなかったから耐えられなかったわけで。そう、今あの子は耐えているんじゃないか。


 なんとなく、ずっとシーウェンは違和感を感じていた。話の表面だけを引っ掻いているような。まだ腹を割っていないような。そこに斬り込む。


「本題を言ったらどうだ。問題は妹じゃないだろう。頭に針を刺して性格を改善してほしいと言うんだから、妹が羨ましいというヴァージニーの願望だな」


 声の感触から奥底に眠る願望を隠している、と判断できた。わかりやすい。


「……鋭いね」


 はっきりとした物言いに、口答えは無意味と判断したヴァージニーは素直に認める。両手を上げて降参のポーズ。


 なぜだか、妹が擦り寄ってくるたびに、神経を逆撫でされているような。嬉しいし可愛い。宝物。それなのに。心の中にドス黒い感情が芽生えてきていて。それが最初はなんなのかわからなかった。だが霧状だったそれが少しずつ凝縮して、少しずつ形ができてきている。


 嫉妬。そう、これは嫉妬という醜い感情。


 なんてことはない。こいつは人に頼ることが下手なんだな、とシーウェンは評価に加えた。


「簡単に言えば『父親を奪われて悔しい』ということだな。私がどうこうという話ではない。じゃ、終わりだな」


 目を閉じる。少し寝るから勝手に帰ってくれ。買い物は……あとでいい。洗濯も。起きてから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ