267話
ちょうどノってきたところなのでヴァージニーは突き進む。止めたくはない。
「いいから話させてよ。で、そんな感じだからちょっと手のかかるとこもあって。そしたら私はほったらかしになった、のかな。ちょっと違うかもだけど」
色々と飛ばして結論にシーウェンは持っていく。まどろっこしい回り道せず、さっさと満足してもらって帰っていただく。
「妹が嫌いなのか?」
そう問われ一瞬、あれ? どうなんだ? と脳裏をよぎったが、必死にヴァージニーは否定する。
「そんなわけはない。そんなことはない……んだけど、元々、私がいい大学とかグランゼコールとか、そういうのに行ってほしかったみたいでさ。期待はされてたんだよね、緩やかに無くなっていったけど」
昔のことを思い出す。スパルタではなかったが、自分なりに詰め込まれた過去。
「今は違うのか?」
自分にはわからない感覚。親であれば、どう進もうと応援するものなんじゃ? 少しだけシーウェンも興味が出てきた。
うーん、とこれまでの人生に思いを馳せてみる。過去と今。ヴァージニーが認識していること。
「どっちかっていうと、幸せなら何でもいいやってシフトしてきたみたい。私もラッキーって感じで好きにやらせてもらってたんだけど、少し前にさ、妹にすごい才能があるってわかったんだよね」
「才能? サヴァン症候群、とかいうやつか?」
そういう人達がいると、シーウェンも聞いたことがある。高いタワーからしばらく景色を眺め、その後数日かけて別の場所でその絵を描く。すると細かなところまで一致しており、何日経っても色褪せることがない記憶力を持つとのことだった。その人物もたしか、なんらかの障害があった。
正確には診断したわけではないし、確実なことは言えないヴァージニー。そうなのかは自分たちも知りたいところ。
「いや、そこまでなのか、それともそれ以上なのかもわかんないんだけど、とにかく知識の吸収と応用が早いというか。物事の本質を見抜くのが上手い、ってカッコよく言っちゃうとそうなのかな。ルービックキューブとかチェスとか。一教えたら十使える、みたいな」
記憶力でも芸術でも数学などでもない。単純に『勘がいい』という程度で収まるのかもしれない。ただただ度がすぎる、それだけ。ニュータイプ、的な表現?
実物をシーウェンは見ていないのでなんとも言えないが、父親の熱の入れようがすごいということは、それほどなのだろう。となると頭もいいわけで。
「それは羨ましい限りだ。上手く活かせばグランゼコールでいいところまでいけるかもな」
暗記するものは当然としても、口述によるプレゼンテーションにも強そう。グランゼコール自体はフランスに二百近くある。当然、全てハイレベルだが、その中でも特に難関なところへ入れるかもしれない。




