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262話

 才能。それは間違ってはいない。だがそれでもヴァージニーは心のどこかで「いや、盛り上がりすぎでしょ」という冷めた部分があった。たまたま、そう、たまたま今のところ初級ステップでいい感じなだけで。どんなものでも幼少の時に『神童』と呼ばれて、残っているのはきっとひと握り。


 プロ、それも世界に羽ばたいていけるプロなんて、そこからさらに篩にかけられて。育ってきた環境から離れた場所で、強いメンタルを持ち続けて、周りからのバッシングなんかも弾き飛ばし、勝利を掴んでいく。そんなものでしょう。


 それがどうしても妹だとは思なかった。甘えん坊だし、好き嫌い多いし、自分がいないとなにもやろうとしない。逆にいえば自分がいれば、言えばやる。ある意味、本当にマネージャーのように早くもなっている。今のところ賃金はもらえていないけど。


 それに。なんだか父がこのところ。


 少し。




 怖い。




「明日はニースまでチェスをやらせに行く。初めての大会だ。疲れがないように、なんとか眠らせろ。それがお前の仕事だ」


 それだけ残し、ゆっくりと、それでいて冷たくドアを閉めた。明るさの減退と共に平穏が戻る。


「……なんだかね」


 もう少しで寝そうな妹を抱き寄せ、ひと言「おやすみ」と言うとそのまま眠りについたらしい。これでよかったのか、それとも眠らせずに朝まで話して。体調最悪なまま行って、初戦敗退で帰ってきたほうがいいのか。


「……」


 なぜ優しかった父が、いや、時に厳しいこともあったけど、まるで私を『補佐役』のように扱うようになったのか。わかっている。


 『見つけて』しまったのだ。ついに。本物を。私のような紛い物ではなく、手塩にかけて育てるべき逸材を。まだ卵の状態のそれを。だからそれを孵化させるために、姉という道具は必要不可欠だと判断した。


 一度は諦めた、自分達から生まれいづる、なにかの『天才』。なにか、はなんでもよかった。贅沢など言っていられない。本当はサッカーとか柔道とかラグビーとか、そういうことを願っていたみたいだが、チェスもルービックキューブも立派。この家から世界へ。


 そのためには、父は使えるものはなんでも。妻であれ、ヴァージニーであれ。ずっと燻っていたものが一気に燃え盛った。今はいかにしてケティをその気にさせて、さらに才を伸ばすか。それだけ。そしてどこかでメディアに売れば。


「……」


 さらに強くヴァージニーは妹を強く抱きしめる。ごめんね、お姉ちゃんに才能があれば、代わってあげられたのに。今から私が、なんてやっても、父は見向きもしないだろう。もうすでに、私は両親と同じ『平凡』のカテゴリに入れられているのだから。平凡。最高、のはずなのに。

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