259話
「他にもピアスとか。お酒とか、タトゥーとか。同じのやりたい」
そうなるとケティの欲望は留まるところを知らない。髪型も。色も同じにして。服も一緒で。お化粧も。早く身長も伸びないかな。
「それはちょっと早い。もう少ししたらね」
「えー」
調子に乗ってきたところはしっかりとヴァージニーは粛清する。今はお互い金髪だけど、歳を経るとブラウンに近づいていく人もいる。両親はそう。染めやすい今のうちに色々と試したかったのに。不満そうな妹は唇を突き出して抵抗。
「私が髪色をピンクにしたらやんの?」
「やる」
「ダメに決まってんでしょ」
なにもかも後をついてこようとするところは、可愛いといえばとてつもなく可愛いけど。最近はアジアン風なメイクとかも好きだしやりたいけど、真似されても困る。このくらいの年齢は素が一番。
そんな様子を微笑ましく……ではなく、いつになく真剣な眼差しで父親は見つめている。
「……ヴァージニー。わからんが、この子はどこまでいくと思う?」
片手で妹をあやしつつ、ヴァージニーは所感をざっくりと。
「わかんない。それに、最初よくってもその後全然ダメとかってよくある話じゃない? あんまり私達が騒ぐのもよくないかもね。自然に。自然に」
もういい時間なので妹を担いで部屋に運ぶことに。「えー、もうちょっと」と駄々をこねられたが、無視してドアを閉めて消えていった。
誰もいなくなったリビングでは、遠くからケティの抵抗する声が微かに聞こえてくる。残されたものは対局の終わったチェスボード。駒。そして父親。
「……あぁ、そうだな」
大人になったな、と時間の流れを感じ取る。そもそも最初だけではあるが、親が過度な期待を寄せていたのは姉のほうだった。自分達が大変な思いをしたから、やはり学が必要であると。高みへ行けば行くほど道は開けると。世界に通用する人間を目指すことが最適解だと。
しかし蓋を開けてみれば、無理な教育をすることができなかった。したくなさそうな娘を見ていたら、強制できなかった。それでもそれなりに成長し、それなりに楽しそうに、それなりにいい雰囲気で学校に通えている。それで充分。充分すぎる。
だが。
「……」
もしかしたらかけ離れた天才というものは、なんの前触れもなく。なんの告知もなく。突然どこかの一般的な家庭にも誕生するのでは。サイディズのような、両親ともに優秀で、設備も知識も備えた状態でなくても。そんなことを考えながら、二人がいなくなったテーブルを見回した。




