表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
259/335

259話

「他にもピアスとか。お酒とか、タトゥーとか。同じのやりたい」


 そうなるとケティの欲望は留まるところを知らない。髪型も。色も同じにして。服も一緒で。お化粧も。早く身長も伸びないかな。


「それはちょっと早い。もう少ししたらね」


「えー」


 調子に乗ってきたところはしっかりとヴァージニーは粛清する。今はお互い金髪だけど、歳を経るとブラウンに近づいていく人もいる。両親はそう。染めやすい今のうちに色々と試したかったのに。不満そうな妹は唇を突き出して抵抗。


「私が髪色をピンクにしたらやんの?」


「やる」


「ダメに決まってんでしょ」


 なにもかも後をついてこようとするところは、可愛いといえばとてつもなく可愛いけど。最近はアジアン風なメイクとかも好きだしやりたいけど、真似されても困る。このくらいの年齢は素が一番。


 そんな様子を微笑ましく……ではなく、いつになく真剣な眼差しで父親は見つめている。


「……ヴァージニー。わからんが、この子はどこまでいくと思う?」


 片手で妹をあやしつつ、ヴァージニーは所感をざっくりと。


「わかんない。それに、最初よくってもその後全然ダメとかってよくある話じゃない? あんまり私達が騒ぐのもよくないかもね。自然に。自然に」


 もういい時間なので妹を担いで部屋に運ぶことに。「えー、もうちょっと」と駄々をこねられたが、無視してドアを閉めて消えていった。


 誰もいなくなったリビングでは、遠くからケティの抵抗する声が微かに聞こえてくる。残されたものは対局の終わったチェスボード。駒。そして父親。


「……あぁ、そうだな」


 大人になったな、と時間の流れを感じ取る。そもそも最初だけではあるが、親が過度な期待を寄せていたのは姉のほうだった。自分達が大変な思いをしたから、やはり学が必要であると。高みへ行けば行くほど道は開けると。世界に通用する人間を目指すことが最適解だと。


 しかし蓋を開けてみれば、無理な教育をすることができなかった。したくなさそうな娘を見ていたら、強制できなかった。それでもそれなりに成長し、それなりに楽しそうに、それなりにいい雰囲気で学校に通えている。それで充分。充分すぎる。


 だが。


「……」


 もしかしたらかけ離れた天才というものは、なんの前触れもなく。なんの告知もなく。突然どこかの一般的な家庭にも誕生するのでは。サイディズのような、両親ともに優秀で、設備も知識も備えた状態でなくても。そんなことを考えながら、二人がいなくなったテーブルを見回した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ