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258話

「ケティは他に好きだったり、楽しいものとかある? なんだっていい。スポーツでも、芸術でも。その他なんでも。なんでもいい。欲しいものとか」


「お父さん?」


 熱の入った父親の質問に、ヴァージニーはギョッとする。それほどまでになんだか必死な、むしろ怖さまで感じ取れるほどで。ここまで感情を露わにしたところは初めてかもしれない。それくらい、のっぺりとした人だと思っていた。


 なんだか少し脳が活性してきた。好きなもの。思いつくものなんてケティにはひとつ。


「うーん、お姉ちゃん」


 頼りになるし。カッコいいし。美人だし。優しいし。嫌う理由がなかった。憧れ。


 しかし当の本人はピンとこない。嬉しいけど。


「……どういうこと?」


 どういう反応をすればいいのかよくわからない。面と向かってこういうことを言われるのには慣れていない。友達同士だと、なんだかニヤけてしまって最後まで言えないから。


「お姉ちゃんがやってること。全部やってみたい。好き」


 とのこと。とりあえずケティは姉と一緒にいたい。それだけ。ルービックキューブもチェスも姉と一緒にやりたいから。そうでないならたぶん、どちらも興味すら持っていない。


 もし姉が歌にハマっていたら一緒に歌うし、読書だったら読み終わった本を片っ端から借りて読む。同じものを食べ、飲み、同じ人を好きになりたい。まるでコピーみたいだが、それでいいとさえ。


 ケティの要求。それを父親は促す。


「……あとなにかやってる?」


 なにか、と言われてヴァージニーは友人達の顔を思い出す。彼女達とどこへ行ったか。色々行った。けど。


「特には……ビリヤードとかダーツとか。なんかこう、頑張ってやろう、とかじゃないけど」


 ただただ付き合いでやっているようなものばかり。自発的に始めたものではないし、そこまでそれ以上でもそれ以下でもない。なので明確な線引きをすると、やっていないと言っていいもの。


 それでも、なにもかも同じでありたいとケティには問題はない。むしろ細かなところは大歓迎。


「それもやってみたい」


 寝ぼけまなこに歓喜が宿る。ビリヤード? ダーツ? ルールはなんとなくわかる。九番ボール……といっても色で判断するけど、を落として、狙ったところに投げるゲーム。もうすでに頭の中では数字以外の部分が鮮明にイメージできている。


 根負け、と言っていいのかわからないが。なにを言っても聞かなそうな妹にヴァージニーはため息をついた。


「……いいよ。全部やろう」


 一瞬だけ、迷いが生じた。一体なんの迷いなのか、判断はつかなかったが、断るほどの理由でもない。楽しさもある。

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