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254話

 テーブルの横に立ち、ケティは口元をむにゃむにゃとさせながら細く瞼を開く。


「……なに、これ」


 なんだっけこれ。見たことある。けど全然知らないやつ。音を脳から引っ張り出そうとするが出てこない。まだ完全に覚醒していない。


 キングを倒してリザインしようか。いや、まだなにか手はあるはず……! そんなせめぎ合いをする父親。駒に触れる指が震える。


「……チェス。学校で教えたりとかもあると思うけど」


 長考。無駄な足掻きかもしれないことは百も承知。


 パリでは小学校、つまりエコールであるうちは無料で習い事ができる制度がある。授業が終わった後、芸術やスポーツなどの講師が学校を訪れ、教育してくれる。コンセルヴァトワールなどでも安価で習うことができるが、こちらは完全に無料。わざわざ場所を移動もなくていい点がメリットである。


 そういえばそんな響きだったかも。目玉をぐるぐると回して思い返すケティ。白と黒のボード。


「ううん、やったことない。どうやるの?」

 

 お互いに一手ずつというのは見た感じでわかる。が、なにがどうなってこの局面になっているのかわからない。どう動くのだろう。


 そこでこの一式セットを買った時についてきた説明書を父親は手渡す。


「ルールブックがこれ。文字ばっかで意味わかんないと思うけど、矢印とかもついてるから。なんとなくわかるでしょ」


 読めなくても、子供でもわかりやすいように大きく図で示してくれている。ただ、ポーンの動きは少し複雑なので、姉に聞いたりしながら、父親の隣に座ってケティはじっくりと読み耽る。キャスリングは一局につき一回ということも教えてもらった。


「……」


 初期配置。白が先攻。ルークは縦横。ビショップは斜め。クイーンは最強。ナイトはなんかよくわからないヘンテコな動き。キングを取られたら負け。脳を使う。なので。


「……ルービックキューブを揃えながら覚えるとは」


 一心不乱に説明書を読む、いや、見るケティの手元には、目にも止まらぬ早さで回転する『四×四×四』。驚いた勢いで父親の手がキングに当たってしまい、倒れる。「あっ」と小さく漏らしたが降参の意思を示してしまったことになる。


 その異様な光景にヴァージニーも呆気に取られる。勝ったこと、スイーツのことなど一瞬頭から抜け落ち、ただただ凝視することしかできない。


「……しかもしっかり揃ってるし」


 いつも通り揃って。そしてまた崩して。揃って。崩して。を繰り返している。崩した後、ほんのちょっとチラッと確認しただけで、瞬く間に揃う。ありえない。

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