246話
でもそれが『普通』のことだという認識をしていたので、特別不満もなく、むしろこの普通こそが充実の証でもあった。普通を過ごせているということは裕福である、幸福である。このささやかな幸せすら、味わうことができない人が大勢なのだ。
だがそのあたりから「あれ? 別に男と付き合うって必要ないのでは?」という考えが芽生えてきた。価値観が違うし、それはそれで参考になることもあるけれど、同性でいたほうが楽なことが多い。そりゃケンカもするけど。天秤にかけたら女の子のほうが。
試しに女友達としてみたキスは、元彼としてみたよりも甘くて。神聖な気持ちになれて。こういう考えとかって珍しいものでもなくて。まわりにも何人かいて。人を変更してしてみたりしたけど、やっぱりこっちのほうが自身には合うと確信した。
「誰にも迷惑はかけていないでしょ? だから問題はないよね」
ある日のこと。自室のベッドでヴァージニーがゴロゴロしていると、妹が入ってきた。勉強はリビングでやるため、部屋にはあまり物がない。子供にしては殺風景なほどに。
そして妹は姉のそばに駆け寄ると、手のひらに乗せたものを見せた。それはルービックキューブ。
「お姉ちゃんのこれ、もらっていいの?」
「いいよ。いくつかあるし」
自分は他にも持っていたので、ひとつプレゼントすることにした。そして頭をひと撫で。
結局、両親から買い与えられていたものは、ぬいぐるみや人形などではなく、知育や指を動かす玩具、のほうが多かった。特に件のルービックキューブは一生遊べるし、どこにでも持っていける。あのあと少しずつ触り始めた。
子供の頃からやっていれば、色々と脳の発達に役に立つだろう、という両親の考え。役に立たなくても友人との一芸披露で話題になるかも。やっていて損はないだろう、という程度に勧めていた。
この頃になると、両親のヴァージニーへの過度な期待は薄れていった。というのも、妹に少し発達障害が発覚したため、そちらに手がかかるようになってきたから。どうしてもグランゼコールなどのエリート街道へ、というほどではなく、まぁ、行けたらいいよね、くらいなもの。入れそうならお金は出すらしい。
つまりは、なにがなんでも行かせたいというより、妹を放置してでも目指すほどのものではない、と両親が判断した。よりヴァージニーは自由度が増した。そんなこんなで妹には感謝もしているし、やはり肉親は可愛い。
サイディズのように解剖学やら言語学やらで論文なんかもちろん書けないけど。それでも、テストの成績はよかったし、友人とも仲良くやれている。それはつまり幸せということ。無相応。順調。これを幸福と言わずになんと言う?




