245話
ヴァージニーは早い段階でそれに気づいていた。気づいていたからこそ、その寵愛を受け、期待に応えたいという気持ちもあった。が、どうしても本気になれない。ある程度の自由。ある程度高度な教育。目標としてはグランゼコール。国を主導していく教育機関。充分に高度だが、サイディズのような尖りすぎた天才、というほどでもない。
「ま、私より優秀なヤツらなんて山ほどいるからね」
その後、他と比較しても要領よく成長していったヴァージニー。自身は歴史に残る『そういう』器ではないことを理解していた。グランゼコールを卒業すれば、どんな職にもだいたいは優遇される。だが、本当の本物はごくごく一部。フランスを背負うのは『そういう』ヤツらに任せればいい。自分は就職に有利になるくらいが相応で。
適度に優秀。適度に天才。世界が持て余さない程度の才能を持ち合わせる。才能、なんて言っても掃いて捨てるほどあるもののひとつ。人間、なにかひとつくらいは誰かに負けないという自信を持てるものがあるわけで。それが稀有だったり、みんなが羨むものだったりすると『上』に行ける。
足が速かったり、数学的だったり語学的だったり。わかりやすいものはわかりやすい。例えば掃除が得意とか、日曜大工が得意とか。そういうのだって才能じゃない? ただ、表彰されづらいだけで。自分はそっち。むしろ、生きて行く上ではそちらのほうが円滑に、それでいて役に立つんじゃないかな?
「何事も程よく。適切に。中庸に」
正確には、真ん中より上。『上の下』から『中の上』くらい。それくらいが友人とも、家族とも、先生とも、知らない人とも上手くいく。頼りにもされるし頼ることもできる。そういった意味では、そこに幼少の早い段階で気づけた自分は天才かもしれない。
平凡、というのは実は非常に困難で裕福なもの。毎日シャワーを浴びることができて。毎朝温かいコーヒーを飲めて。学校へ行って勉強して、同級生の男の子と仲良く映画を観に行ったり。それはとても恵まれていて、普通であるということは非常に充実しているということ。
だから目指す価値がある。両親としてはもう少し上を目指したかったんだと思うけど、幸せならそれでいいんじゃない? いい仕事に就く、ということはその先をたどっていくと幸せになる、ということでしょ? 今、私はそれを幸せに感じているなら、それでいい。結果が一緒なのだから。
そんな少し、世間というものを斜に構えつつも、一四歳で初めて恋愛をして、しかし付き合った男の子とはあまりいい恋愛にならなかった。お互いに「なんだ、こんなものか」という感想を抱いた。どうせ今の年齢から付き合い出しても、そのうち別れるだろうという気持ちがあったのかもしれない。




