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244話

 うーん、とその数字を噛み締めつつ父親はキューブを自身の手に戻し、そして待つこと十数秒。長年の経験をもとに揃え終わる。そしてそれを再度手渡す。


「二〇。大体それくらいあれば、どんなにグチャグチャにしてしまっても、理論上は揃えることができるらしい。四三二五京あっても、たったそれだけなんだ。つまり——」


「複雑なものは、自分達が複雑に見ようとしているだけであって、本質はシンプルだ、ってこと?」


 全然二〇で終わってなかった気がするけど。父は遠回しに伝える時がたまにある。なので先んじて真意を汲み取ろうとする癖が自分の中にあった。合ってるかはわからない。


 しかしそれは今回は当たりだったようで、父親は一瞬ポカンとした表情になったが、すぐに子の成長を嬉しがる。


「その通り。察しがいいね。さすが私達の子だ」


 その楽しそうな父親とは真逆に、正解したはずのヴァージニーの顔つきは憂いを帯びている。


「別に……」


 自由にのびのびと。口ではそう言いつつも、本心では欲望が透けている。ある程度の心の隙間と余裕を持たせてくれている、ということに幼いながらもヴァージニーは気づいていた。人工的に才のある者を作り出そうとしている。自分達がなれなかった存在に。私が。


 しかしそれは親であれば全くもっておかしいことではなく。どんなことに集中するかわからないから、色々なスポーツや習い事をやらせてあげる、ということが少し他の子達より多かったり濃かったりするだけで。「教育熱心ね」なんてまわりが感心する程度のもので。


 史上最高の天才、というと思い浮かぶのがアインシュタインやレオナルド・ダ・ヴィンチ。だが、両親が思い描いていたのは彼らよりも、ウィリアム・ジェイムズ・サイディズのような、それでいて彼を反面教師にもする。なにもかも詰め込みすぎると精神を崩壊させる。


 生後六ヶ月でアルファベットを覚え、七歳でハーバード大学に合格、などというサイディズほどやり過ぎた教育はせず、じっくりと、だがそれでも他の子供達よりは高度な学習を。罰は与えないなど、いいところは取り入れた。


 とはいえ、あちらは両親共に心理学者や医者。特に母親は義務教育すら受けたことがないにも関わらず、ほぼ独学で医師となったほどの人物。ヴァージニーの両親は自分達がそれほど優秀ではないとわかっていたからこそ、じっくりと才能を培養していくことにした。


 フランスは世界でも有数の超学歴社会、という部分が根幹に存在する。少しでも子供に職業の選択肢を。ゆえに過激な親というものが誕生しやすい背景もある。親心、といえば聞こえはいいが、度が過ぎる場合も多い。

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