237話
ややこしいことにならなければいいね、と心の中で危惧しているグウェンドリン。ギフトビーネが去っていった方角を見据える。
「普通に考えたら、チェスで人が死ぬなんて思えないよね。ただの楽しい遊び、勝負、競技、仕事。そんなくらいでしょ」
「そいつらはプールで泳いでいるだけ。我々は海の。さらに深いところで酸欠になるまで潜る。もはや根本から違う」
思考も。必要とされる能力も。胆力も。鋭い視線でドゥ・ファンは「お前もだろう」と語を挟む。
そろそろ行こうか。席を立つグウェンドリンだが、肯定も否定もしない。自分はバランスを保つために。それだけのために。自我などこの席に置いていく。
「もうひとりいるんだよねぇ。ヤバそうなのが。いいねぇ、ドイツは人材の宝庫だ」
ピク、っとドゥ・ファンの瞼が動く。
「ヤバいというのは?」
強いよりも。好きな言葉。性欲とリンクしている。
その反応は予想通り。楽しげにグウェンドリンは教授する。
「女なのか男なのかわからない。だが素質はある。実力も」
なんだ。答えは簡単。確かめればいいだけ、とドゥ・ファンはあっさりと方法を口にする。
「なら抱けばいい。そいつを私にアテンドしろ」
男女どちらでも。それで解決だ。直々に確かめてやる。
引き攣った表情のグウェンドリン。さすがにそこまでするほどの人脈はない。
「なんて極端な。ま、引き続き監視するよ。お金はもらってるんでね。それからでも遅くはないだろう」
危険な蜂を支配下に置くための。楽しむための。そんなヤツらのために。
ギフトビーネ。アベイユ・ヴニムーズ。ドゥ・ファン。
その他、何人いるかもわからない毒蜂。そんな美しき指し手達が。崩壊する姿を見たい。そんなヤツらのために。




