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232話

「あっちは仮面。こっちが本性。俺のことがバレているなら隠してもしょうがない。手っ取り早く話が進むためにね」


 必要ないだろう? とシシーとしてはバレたらバレた、でいいと思っている。別に優等生である必要性は、よく考えたらない。普通に生活していたらそうなっただけ。なりたくてなったわけではない。


「……なるほど。想像以上に頭のまわる方だ。チェスも強そうだ」


 こういう人間のことを天才と呼ぶのかな、とグウェンドリンは当てはめつつ賛辞を送る。少なくとも自分とは違う。


 となると、この話の流れになった原因。じわりとシシーが間合いを詰める。


「どうやって俺のことを知った? 誰かに聞いたのか?」


 パリに知り合いはいない。いないこともないが、かなり関係性は薄い。とするとどこから?


 もう手に持ったカードはバレている。オープンにしてグウェンドリンは円滑に話を進める。


「いえ。でもなんとなくわかるでしょう。遊びでチェスをやっているか。それとも危険なスリルを求めてやっているか。真剣師の嗅覚、みたいなものが。あなたも私に気づいたから、こうやって声をかけたわけで」


 特有のオーラ。それはサーシャや自身のように、歪な形でチェスを楽しむ者。言葉には表せないが、シシーにも心当たりがある。


「たしかに。キミは随分と危険な沼に足を踏み入れているね。もう戻れないくらいに」


 飄々としているけど。同じ穴の狢。空気がピリっと引き締まる。


 隠す必要がないのなら、とむしろグウェンドリンは積極的に誘う気構えにチェンジする。


「まぁ、会話もなんですから。目隠しチェスでもやりませんか?」


 頭の中だけで。他の客からも目立たないし。棋譜を並べるだけでは勿体無い。


 シシーは変わらず笑みを浮かべる。


「そちらのほうがより深く会話できる、か。賭け金はどうする? 百ユーロくらいでいい?」


 自分達の領域。よりやりやすいように。指しやすいように。身を削る。


 妙に頭がスッキリしたグウェンドリン。腕を伸ばしてストレッチ、準備万端。


「話が早くて助かります。そうですね。とりあえずそれでやりましょうか。先手をどうぞ」


 ここはフランス。パリ。アウェイということでシシーは気を遣われる。微有利な白で対局が始まる。


「そういう人は好きだ。◇ポーンe4」


「どうも。◆ポーンc5」


 まずはグウェンドリンはシシリアンディフェンス。これがチェスプレーヤーにとっての挨拶。朝、コーヒーを淹れるように。相手の◇ポーンe4に対して◆ポーンc5。これが一番勝率が高いとも言われる定跡。

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