227話
一気にオカルトの話になり、再度ダヴィドは頭を抱える。今日は厄日。
「……すまない。まだ頭が混乱している。思ったよりも重症のようだ……」
「気にするな。こいつは常にこういうヤツだ」
落ち込む大人をフォローするシシー。だがこの人も弱くはない、むしろ強いほうだろう。ぜひ落ち着いたら一度対局してみたい。
「ならなぜ私は負けた」
もうなりふり構わないダヴィドは、藁にも縋る思いで目の前の少女に縋り付く。たかがボードゲーム。されどボードゲーム。勝って負けて気絶する者も出るほどに、駒とマス目に賭ける想いは強い。
対局を見ただけなので精神的な部分はわからないが、シシーに言えることはひとつ。
「け——」
「研究が足りなかった。それだけ」
そう言い切ってサーシャは次の料理。トマトにモッツァレラチーズのカプレーゼ。爽やかな風が吹き抜ける。
「研究?」
喉がカラカラに渇く。だがそれよりもダヴィドはその敗因に食いつく。
フォークでトマトとチーズを串刺し、一口で処理しながらサーシャは詳しく解説。
「ま、足りないって言っても僕よりはしてるでしょ。それに医者だって言ってたし、着こなしからもどちらかといえば、奇手や妙手を選ぶよりも堅実にくると思った。だから最初はそれに付き合いますよ、って見せておいて、一気に罠を発動したわけ」
「たしかにな。あんた、じわじわと相手を追い詰めるタイプだろ? 相手の戦術を見極めるのは得意だが、意地の悪い相手では勝てない。こいつみたいに」
サンドイッチ後のコーヒーを飲みながら、シシーの所感も付け加える。柔軟性の問題。相手を見ること。相手の嫌がることをやること。ネットの対戦ではできない、生の対局だからこその味わい。それが好きだ。
言い訳とはわかってはいるが、それでも今回の対局について、ダヴィドは呟かずにはいられない。
「クイーンズ・サクリファイスなど、普通そんな研究するものではないだろう……」
研究したとしてもそれこそ終盤。あんな初っ端に捨てて、そこから一気に、なんて想像もしていなかった。そう考えると完敗という以外の何ものでもないが、少しでも自分を正当化したい。だが。
「それ」
「?」
マナー違反だが、食事を飲み込んだサーシャはフォークで、キョトンとするダヴィドを指す。続けて、
「だがそのせいで負けた。可能性はあれだよ、全部潰さなきゃ」
その勢いのまま次のカプレーゼ。バジルのソースが美味い。
飲み込むのを待って、ダヴィドが語を継ぐ。
「キミは研究していた、と?」
そんな千局に一度、あるかないかわからないような捨て方。他を研究したほうがいいに決まっている。




