223話
なにを言っても無駄か。どうやってわかったのかは全く不明だが、何度違うと言っても意味はない。本当は違ったとしても、認めるほうが手っ取り早い。
「……で? 俺がそうだとしたらなんなんだ? 話したい、ってのは?」
だが放置もできない。なにか目的があるから近づいてきたはず。あまり事を荒立てたくはないが、場合によってはやむなしか。
やっと話が進む。男が足を組むのは感謝の証。
「これもさっき言った。キミにはもうこの先の展開が読めているはずだ。あの……少年? 少女? の勝ち。次の手。せーの、で言い合おうか」
突然始まるシンクロ。勝ち負けはもうわかってるし。ならギフトビーネの実力を計測するならば、次の一手でわかる。否、彼女ならわかってくれるはず。が。
「勝手にやっていろ。俺には全く読めない。どっちが勝つのかも。次の一手も。初心者なもんで」
面倒なことは避けるシシー。もし二人の意見が合致したとして。それがなんだ? このあと食事でも、となるわけもない。徹底的に無視に限る。
と、なることは読めていた男は、携帯を取り出してなにやら操作。そして耳に当てて電話をかけ始める。
「なら、この場に警察を呼ぼうか。未成年が紛れ込んでいる、って。うわー、大パニックだね。キミのせいで」
フランスのみならず、世界的にカジノでの身分証明はかなり厳しい。場所によっては指紋チェックも日常的に行われるほど。未成年がいるとなると、すぐに警察は突入してくるかもしれない。
より面倒なヤツ。性格は最悪だろう。はぁ、と大きくため息をつきながら、シシーは◆ルークe8の次の手。勝利を呼び寄せる一手を示す。
「……◇ビショップd6。これで確定だ」
その答え。やはりキミはギフトビーネだ、と確信した。より男のテンションは上がる。対局の邪魔をしないよう、声を押し殺すのが辛いほどに。
「ははッ! 一緒だ、よかった。目的もわかっているんだろ?」
eファイルを開けたまま。クイーンは剥き出し。つまり。シシーはこの先の展開を予言。
「クイーン・サクリファイス。◆ルークe1で◇クイーンをテイクしたところで、◇ルークe1でテイクし返す。すると、今度は◆クイーンf8が、先ほど動かした◇ビショップd6にテイクされるから、逆にこいつをテイクすると……◇ルークe1がe8まで上がってきてバックランクメイト。終わりだ」
最強の駒、といえばクイーン。縦横無尽に駆け回る、自陣を支え、攻め入る屋台骨。まさか開戦の一発目から捨てる、なんてことは普通であれば考えない。なぜなら強いから。勝つために必要な駒だから。




