221話
口調。先ほどまでと全く違う落ち着いた、まるで『女性のような』丁寧な喋り。
「……なんだ? どういうことだ」
ドリンクを頼んだ時も感じていた。このティック・タック・トゥーの底知れなさ。まるで『別人を相手にしているような』、そんな雰囲気と戦術。
ニヤリ、とサーシャは。笑う。
「恐らく、無理に突っ込んでも。最初から場を掻き乱そうとしても。あなたなら対応してくると思いました。なので、あなたのやりたいことに『付き合って』あげただけです。もういいでしょう」
「なに?」
急に何年も動いていなかった機械が動き出したかのように。一気に捲し立ててくる相手にダヴィドは不信感を抱く。この流れ。最初から読み切っていた? ルイ・ロペス。ベルリンディフェンス。そこから。ここまで?
すでに場を制圧した姿はサーシャには見えている。ここからは一気にいく。『魅せる』方法で。より、自分への興味を持つ者が出てくるように。
「人間とAIの最大の違いって、なんだかわかりますか?」
不意に。そんな雑談を放り込む。シシーにも聞かれたけど。そう。『私』なりの答え。
一旦、落ち着こう。手を止め、思考をクリアに。ダヴィドはその質問をあえて考える。いくらでも思いつくが、そのうちのひとつ。
「一番効率のいい手を選ぶ。そういうことか?」
ならばこの場では。クイーンが晒されているこの場ではどうやってeファイルを——
「最大の違い。それを今から教えてあげます」
そうして駒をひとつ、手にとる。一度手にしたら動かさねば反則負けになるチェス。私は丸罰ゲームの『丸』。リディア・リュディガー。これが。私の答え。




