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219話

 ◆ルークe1。◇クイーンe1。


 明らかに手が遅くなる。じっくりと、先の展開を読みながら慎重に。だが大胆に。それでも考えるところは考える。「もう一回」ができない競技。ミスをするとはいえ、簡単なミスは悔やんでも悔やみきれない。すでにチェスに本腰を入れていない人間にはよくわからない領域へ。


 局面が変わる。一度フレッシュに頭を切り替えたいダヴィドは、スタッフに酒を要求する。


「キミも何か飲むか? 奢ろう」


 他意はない。本格的な大会や対局であれば、チェスは相手に声をかけることもイエローカード。当然スタッフにも。だがこれは非公式の大会。ある程度は許される。


 驚きつつも、変化を加えたいサーシャもひと呼吸。小さく要求。


「……じゃあ、コーラで」


 そしてすぐ盤面を覗き込む。今、いいところ。


「? コーラとアヴィエーションを頼む」


 最初の威勢がどこかに消えていることに、ダヴィドは首を傾げつつも、この状況なら緊張もするだろう、と心情を察する。自らが望んだことだが、見せ物のようにチェスを指す。友達同士の遊びとは違う。


「どうぞ」


 ストロー付きのコーラと『軍用機』を意味するカクテル。それぞれにスタッフが置く。


 受け取り、ダヴィドが味を確かめる。


「それぞれにはそれぞれの指し方がある。私は酒を飲んでいる時が一番強い。今から爆撃が始まる。せいぜい身を縮こめて丸まって隠れていろ」


 明確な開戦の合図。ドリンクが来るまで、自身の時間は使ってしまったが問題はない。そのぶん先まで読み込めた。


「……」


 終始俯き加減でコーラを啜るサーシャ。糖分を補給してここからに静かに備える。


 だがその先ほどまでと違う空気。それがダヴィドには不思議でならない。


「高純度な定跡はわかった。だが、トリッキーな指し方はどうした? いや、やれと言っているわけではない。だが、少し不気味だ」


 ◆ナイトe8。チェスは会話。あれほど喋ることに特化していた者が、それを押さえつけている。余裕がない? そんな気はしない。詰まされることが見えていても、喋りで避けようとするタイプだろう、こいつは。なら今の状況は?


 ◇ポーンc3。◆ポーンd5。◇ナイトd2。探り合いがそろそろ終わり、大駒たちが準備を始める。今か今かと胎動するが、先に仕掛けるべきか、それとも相手を対応するべきか。序盤の駒のぶつかり合いを演じた後、ということもあり、より第二波への期待が高まる。


 ◆ポーンc6。◇ポーンa4。少しずつ、お互いの足元が崩れ始める。

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