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216話

 勝手に始まることになった対局。とはいえ、それが目的で来たシシーにとって、むしろ先を越されて悔しい感情のほうが強い。


「伝えるまでもなさそうだな。ここでの対局はギャンブルの対象となる。最初にもらった端末で賭けるらしい。お前には意味ないが」


 他の参加者にとってなにも情報がない二人のチェス。寂しい賭けになるかと思いきや、ほとんどの客が賭けに応じ、それなりの額をベットしている。情報がないからこそ。コインの表が出るか裏が出るか、程度のほぼ運のようなギャンブルをしたくなる時があるらしい。


 普段と違うといえば。静謐な空気感。張り詰める緊張感。焦燥感。そういったものが、観客の声でかき消されてしまう点。当然ながら他のギャンブルをやりながらのため、声以外にもイスの音、チップを賭ける音、飲み物、その他が思考の障害となる。


 すでにイスに座った対戦相手。それを焦らすように、会話を優先するサーシャ。もう勝負は始まっている。


「注目を浴びるのはあまり好きじゃないんだけどね。まぁいいか、勝ち上がればどうせ人の多いとこでやるんだろうし」


 端末を確認するが、当然ながらオッズなどはわからない。その他、飲食もこちらで計算されている模様。これもリベレに払わせることができるかな? と一銭も払わずに今日を終える予定。


「で? どうだ? 相手の感想は?」


 雰囲気はある。そして蜻蛉という名前。天敵であることはシシーも理解している。だがそれは自然界の話。チェス界であれば無関係。


 んー? と腕を伸ばしてストレッチしつつ、サーシャは初感を述べる。


「強いんじゃない? 少なくともこの前の子よりは。まぁ彼はこの前の負けで強くなって帰ってくるだろうけど」


 余計なことをしてしまったかも、と前回の戦いを振り返る。そもそも任されただけなのだから、どうしようもないけど。


 この前。コンラート・ファスベンダー。棋譜を確認してみたが、随分と癖の強い対局であった。流石にシシーも真似はできないししようとも思わない。しかし彼には悪いことをした。


「ルーザーズ、俺もさっき知った。そうではないかと薄々気づいていたが」


 より一局に集中するため、マスターが教えなかったんだろうが、と予想する。そしてそれはひっそりと当たり。


 頬を膨らませて達観した彼女にサーシャはやつ当たりをする。


「なら言ってよ。ひとり知らなかった僕がバカみたいじゃない?」


 なんか悪役に仕立てられているし。彼女に関わると本当に退屈しない。

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