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213話

 初めて視線をリベレは隣に投げかけた。そこには多少の落胆。


「仕様を知らないのか? ダブルエリミネーション。つまり一度負けた者はルーザーズのトーナメントに入る。そこで勝ち抜けば、無敗の相手と決勝戦、というルールだ」


 誰でも一度の敗北までは許される。つまり敗者復活のあるトーナメント。様々にあるルールの中でも、数を増やしてきているルールとなる。


 それを理解したサーシャは、新たにバーでノンアルコールカクテルを注文。『シンデレラ』。柑橘系のジュース。


「初めて聞いたよ。そこらへんは教えてもらってなかった。言われた通りに対局するだけだったから。なーるほど」


 ドカッと座り直し、まだ続いていたのか、とニヤける頬。毒蜂のサポートも面白いが、当然生き残っているならそれに越したことはない。一気に飲み干す。


「とは言っても、この大会で使用されるのは今回から。より多くの対局を行うことで、金を多く動かす。出場者はチャンスが倍ある。いいことづくめ、だそうだ」


 あまり聞きたくもない、大会の裏側をリベレは暴露する。金のために。経済をまわすのは大変良いこと。盛り上がってチェスの人気が膨れ上がるなら、それもまた良いこと。


 今度から、買ったものの説明書などは読むようにしよう、サーシャは心に決めた。


「解説ありがと。ていうことは? あなたに勝てば、僕はもう一度ギフトビーネと戦えるってこと」


 なにも賭けずに対局するだけでも面白いのに。またあの興奮が味わえる。熱い吐息を漏らす。この人がだんだん救世主に見えてきた。


 少し顔を上げて、下層全体にリベレは目を向けた。盛り上がる賭場だが、最高潮はこれから。


「……あの毒蜂と戦うのであれば、ルーザーズを勝ち上がり、向こうも勝ち上がった決勝で、だ。だが」


 語尾に逆接を挟む。


「なに?」


 底抜けに明るくサーシャは相手の横顔を見る。なにか問題でも?


 強気なのはいいこと。チェスにおいて大事なことだ。強い一手、踏み込めるかどうかで戦局が変わることも多い。それでもリベレには確定していることがある。


「そうはならない。私がお前の相手だからだ」


 ここで負けるから。二敗目で終わり。退場となる。


 少しカチン、と頭にきたサーシャ。「ほぉぉ……」と低く唸り、鋭く現状を把握。


「自信あるね、でもキミも負けてるからここにいるんでしょ? 説得力ないよ」


 お互い負け同士仲良くしようよ、と余裕たっぷりに膝で頬杖をつく。


 リベレは敗北の説明。大人には事情がある。


「私は不戦敗だ。医者をやっていてな。緊急のオペだ。出場すら叶わずこうなった。言い訳だがな」


 結果、命が助かったので不満はない。小さな街。心臓を切れる者は限られている。仕方ない。遊戯のため不在、というのも居心地悪い。

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