204話
さっきも聞かれた。それも同郷の者に。だが、不思議とこの女性との会話に、少しだけ個人的な興味をシシーは持ち始める。
「まだ初日だからなんとも言えないけど。刺激的な国だね。レティシアさんのように美人がいる」
さて。どう返してくるのか。なるべく本気の瞳で。
軽くあしらうように、レティシアは背もたれに寄りかかる。
「あら。でも残念。私は心に決めた人がいるの」
そして思い浮かぶ。あの頼りなさそうな。誰にでも優しくて。
あっさりとフラれたシシー。微塵も揺れなかった。よほど好きなんだろう。そう思われている人物が羨ましいね。
「それは残念だ。じゃあ俺は二番目、ということで」
「ふふっ。面白い人ね」
美人、ということ以外にも、姉妹校で歴代でも最高に近い模範生であるとの情報も、レティシアは手にしていた。さらに性格も明るく朗らか。非の打ち所がない。これはファンがつくわ、とひとり納得。
その後も他愛のない身の上話。逆にケーニギンクローネはどんなところなのか。好きな人はどんな人なのか。モンフェルナ学園とは。
いつの間にか、それなりに時間が流れていることにレティシアが気づく。
「それじゃあ、そろそろ行こうかしら。次の授業があるし。それじゃ、また」
立ち去る時も美しく、凛とした気品を添えて校舎のほうへ。
まだこの後も授業があるのか。その背中に向かいシシーも返答する。
「あぁ。楽しみにしている」
ネットや本では得られない、生きた情報。そういったものを得られた。最初は懐疑的ではあったが実際に来てみると面白い。ドイツにはない文化や歴史。
「……さて」
空を見るシシー。すでに夕暮れに入っている。あと一時間もしないで真っ暗になるだろう。寒さが少しずつ忍び寄ってきた。だがこのまま寮で休むのも勿体無い。せっかくのパリ。私服に着替え、街に繰り出そうか。




