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195話

「いつでも言ってよ。サービスしとくよ、フェリシタスなら」


 それでもお金は取る。当然。リディアのため。


「リディア、ねぇ……」


 なんだか達観しているかのような、そんなうわ言のようにフェリシタスは名前を口にした。妹。もう治る見込みのない。その子のために。


 なんだかいつもと違う様子にサーシャは悩む。


「今日はどうしたの?」


 おもむろに備え付けのポットでコーヒーを淹れる。あまり部屋ごとに置いてあるところはないので、少し珍しい。リディアは砂糖とミルクたっぷりだった。自分もそうしてみよう。


「……」


 その姿を鋭い視線でフェリシタスは眺める。苦い香り。そういえばコーヒーの香りは、他の香りをリセットする効果があるとか。リセット。なにを?


 暗黒のようだった液体に、ほんの少しずつ希望が差し込むような。黒からほんの少し明るい色へ。冷ましつつ、サーシャは味を確かめる。


「フェリシタスも飲む? 砂糖とミルクは?」


 姉も甘々かな? なんて微笑みながら、答えを聞く前にカップにインスタントの粉を入れた。瞬間。


「……ごめん」


 後ろからサーシャに抱きつくフェリシタス。その勢いでカップを落とし、床に粉が飛び散る。だが、そのままキスをするでも、ベッドに押し倒すでもなく。しばらくそのまま。


 その腕に触れ、色々と憶測してきたサーシャだが、確信を得る。


「……やっぱりね。なんとなく、気づいてたよ」


「……」


 フェリシタスは答えない。なにを? 聞かなくてもわかる。この子は勘が鋭いから。


 ここ最近の変化。そしてこの反応。感謝の気持ちを含み、サーシャは口を開く。


「……僕の代わりに引き受けてくれてるんでしょ、この仕事。半分、いや、もっと、かな」


 コーヒーのように真っ黒で。苦くて。甘さを自分で足すしかない、そんな仕事。


「……まぁね」


 隠しても仕方ない。否定しても意味はない。あっさりと隠し事を認めるフェリシタス。自分なりになにかできることを。考えたらこうなった。


 もし自分が彼女の立場だったら。同じようにしているかもしれない。いや、きっとそう。温もりを確かめるようにサーシャは、より強く体をすりつけた。


「で、どうだった?」


 感想。「ごめん」とか「なんで」とか。それよりも同じ立場というものが、少し嬉しいような。でも、やっぱりごめん。フェリシタスは綺麗だから。きっと人気も出てるんだろうな。


 まさか最初にそれを聞かれるとは。疲れとか、痛みとか。そんなものフェリシタスは吹っ飛んだ。


「んー……普通。いや、どうだろ。率先してやりたい、ってもんじゃない、けど——」


「けど?」


 含みのある言い方にサーシャは飛びつく。僕は率先してやりたいけど?

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