192話
当然のことながらフェリシタスの両親からは、そういった援助は受けられないし、そもそもその人の素性も顔も明らかにできないのなら、尚更受け取れない、と暗雲が立ち込めた。
だが、逆に明かすなら支援はできないお金持ち、という設定をフェリシタスが盛り込んだおかげで、渋々、疑いはまだ晴れないが、受け入れることになった。家でも学校でも優等生で通っているというのは、時々使えるものである。
「そう、それなら……よかった……!」
いつものようにホテルにて。壁に寄りかかるそのフェリシタスに見守られながら、常連の女性に抱かれるサーシャ。いつも通り、誰かに見られていないと興奮しないらしい人。リディアのことも知っており、なにかできないか、とは思っていたとのこと。年齢は四〇代。
「私はサーシャちゃんを抱ける。サーシャちゃんはお金を稼げる。リディアちゃんは生きられる。一石三鳥ね」
「そんなものですかね……」
抱かずに寄付してくれてもいいんですよ? とフェリシタスはその女性に持ちかける。「それもありだけど……」と。しかし最近、さらに愛くるしさに磨きがかかったサーシャを見ていると、止まらないらしい。何度も舌を絡め合う濃厚なキスを交わし、料金ぶんしっかりと味わう。
抱かれながらも、頭にはリディアの顔が浮かぶ。体を売るだけで彼女が助かるのなら。助かる、っていうのとはちょっと違うのかもしれないけれど。可能性を残せている。だが浮かぶその顔は、どこか晴れないもので。こんな顔、見たことないかも、とサーシャは無心で人から愛を受け取る。
終わりの時まで何人抱かれればいいのか。抱けばいいのか。数えるのはやめた。
テーブルの上にはタバコと飲みかけの酒。その他、ちょっとお高めのオプション。撮影機材でベッドの上は撮られている。もちろん売り捌くためではない。そんなことをすれば捕まる。あくまで自分用。まぁそれも捕まるけど。三〇代女性。
男性ものの服と、女性ものの服。様々に着替え、それらを破りながら暴力的にサーシャを抱きたい。物静かで大人しそうな事務職。二〇代女性。
全面鏡張りの部屋。五〇代女性・三〇代女性その他複数。
聞いたことのないようなプレーも、値段の交渉次第。切れることなく埋まっていくスケジュール。様々な愛の形をサーシャは受け止め、その度に少しずつ、思い描いたリディアが泣き顔に変わっていく。そんな気がした。
(そんな顔しないでよ。可愛い顔が台無しだ……)
白ずみ、薄れていく。だが、また誰かから必要とされ、愛してもらえると色は濃くなる。徐々に。だが確実に。曇っていくリディアの表情。そんな顔、実際には見たことないのに。笑顔しか。あと、怒った顔。知らない顔が足されていく。




