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184話

 たまらず吐き出したサーシャ。その液体が姉の顔にかかる。荒く呼吸をし、整いだすと、無表情で待つ姉の顔の、胸元の、足の酒を舐めとる。そのように躾けられた。全身の汚れはその舌で。足の指の股まで。


 全て終わると、サーシャは脱力したまま、相手の胸元に寄りかかる。少し、この仕事を休みたい。溶けるように。消え去ってしまいたい。


 年相応。よく考えたら、恋くらいするでしょう。健全な証拠、と姉。でも。


「ダメ。まだまだサーシャを待ってる人がいるんだから」


 独占はしたい。だが、自分が入れ込むような人間。他の人にも見せたいし、分け与えてあげなきゃ。『持っている』者は、我を抑えて持っていない人にも味を教えてあげるの。


 なにも変わらない状況。いや、ずっと続く日常。きっと、昨日のことはすぐに忘れる。経験のないことだったから、少し脳がバグってしまっただけ。悲しいという感情より、安心が勝った。サーシャはそのままベッドに横になる。


「このまま休んでいっていいから。私はこれで」


 私服に着替えて姉は部屋を出ていく。なんとか、という女学院の模範的な生徒で通っているらしい。品行方正で文武両道。家はちょっとお金持ち。なに不自由なく暮らせるお嬢様。


 休んでていい、そう言われなくても体が動かない。なんとか仰向けになると、そこには当然見知らぬ天井。赤い。血の色よりも明るい。そのまま目を瞑る。眠れないけど。このまま少しずつ体が空気と同化していけば。そして空からベルリンをパトロール。ふふ、と笑みを浮かべた。


 唐突に携帯が鳴る。携帯が鳴る、ということは次の相手が決まったということ。連絡先はそういった人達しか知らないから。確認すると、常連の女性。


 《サーシャ》。


 文面はこれだけ。この人は少し危ない。指定された場所に行くと、普通に複数人用意されていることが多々。しかも見られながらするのが好きらしく、他人と自分がしているのを見てほしい、という願望もたまに。だけど。つまり。それは。


 必要とされている。


 よかった。僕はまだここにいていい。

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